その3 俺の水魔法の威力

 ポントス先輩は一瞬怯んだ様に見えたが、すぐに元の調子を取り戻す。


「見えたところで構わぬわ。我が鍛え上げた肉体、むしろ人に魅せる事こそ本望よ。ではアブドミナル・アンド・サイ」

 ポントス先輩はむしろ胸を堂々と誇張するようなポーズをとろうとして……

 スコーン!

 重いっきりこけた。

「なん、だとぉ!」


透明の水スケルトン・ウォーターの本領、それは透け透けの服と肉体を鑑賞することにある。だから鑑賞対象は逃げられないよう、足場がつるつるぬめぬめになるのだ!」


 そう、第二の特長はぬめぬめしてその上で移動等とても出来なくなる事。

 この二つの効果を合わせた結果。

『必死に脱出しようとしている少女の透け透け服とその身体を鑑賞できる魔法』が完成するわけだ。

 俺必殺の水魔法、此処に極まる!


「うん、いやらしくてなかなか蒼生らしい魔法だね」

「失礼な。俺は紳士だぞ」

「でも風魔法も脱がす魔法と脱ぐ魔法だったしね」

「ぐぬぬ」


 確かに。

 でもこれは俺のせいじゃない。

 魔力をそそいだ朱莉さんと知佳、翠さんの影響だ!

 多分きっと。


「それでこれ、どうするの?」

 翠さんがポントス先輩を指す。

 先輩、必死になって透明の水スケルトン・ウォーターの広がりから逃げようとしている模様。

 でも見た限り、当分はここで動けなさそうだ。


「放っておこう。筋肉系女子は俺の鑑賞対象外だ」

「そうだね」


「でも資料のため、ちょっと写真だけは撮っておきましょう」

 翠さんがスマホを取りだし、必死な割には笑えるポントス先輩の色々なポーズを写真におさめる。


「憶えておけ、まだ三銃士最強のアトスが残っておる。彼奴こそ必ずお前らを……」

「これで一通りOKだわ。念の為あの魔法を追加しておいた方がいいかしら」

「わかった」

 俺は透明の水スケルトン・ウォーターをもう一度発動する。

 ポントス先輩の周りの透明の水スケルトン・ウォーターが更に一層広がった。


「じゃあ帰ろうか。ちょっと遅くなったし」

「そうだな。帰りに夕飯材料を買わなければならないんだ」

「鈴木先生は作らないの」

「遅くなるからな」


 俺達はのんびりその場を去る。

 何か後から時折聞こえるが気にしない。

 それより今の戦闘で十分くらい帰りが遅くなったのが心配だ。

 スーパーの半額惣菜は売り切れていないだろうか。

 それが気になる。


「おぼえていろー」

 そんな台詞が遠吠えのように夕暮れ景色に映える。

 平和な春の一日が幕を閉じようとしていた。

 神は天に在り、世は全てこともなし。

 そんな感じで。

 まあ俺は無神論者だけれどさ。

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