その3 お粗末様です

「次は私、口頭試験でお願いします」

 知佳がそう自信たっぷりに言い放つ。

 知佳、自信があるのかよ。

 大丈夫かな本当に。


「それでは口頭試験ね。御題は……そうね、鉛筆と消しゴムではどうかしら。御題ををどう使ってもいいから、それで愛を語って下さいな」


「わかりました」

 知佳が自信たっぷりに頷き、そして目を閉じ、口を開く。


「私は消しゴムちゃん。鉛筆君のことがだーい好き。

 だから彼が私以外の身体に痕跡を残すのが我慢できないの。

 ノートでもメモでもそう。

 私以外の身体に残した痕跡なんて全部消してやるんだから。


 彼が他人の身体に残した痕跡を消していくたびに私の身体はすり減る。

 でもいいの。

 これが私の愛だから。

 せめて私が消え去るまでに鉛筆君が私の事に気づいてくれれば。


 だからねえお願い。

 どうか私の愛に気づいて。

 そして私が消え去っても私の事を忘れないでね。

 いずれ消えゆく私の、これが最後で唯一のお願い。


 私を愛して。

 その黒くて太い芯を私の身体に突き刺してもいい。

 私は貴方のする事ならば何でも耐えてみせるから。

 だから、お願い」


「はい採点」

 前の優等生型美少女がそう告げる。

 先程に比べるとやや挙手の数がまばらかな。

「やや平凡ですが、まあいいとしましょう」


「じゃあ、次は蒼生がやります」

 知佳が宣言した。


「おい、そんなの俺用意していないぞ」

 俺は知佳程の妄想癖も翠さんのような腕も無い。


「大丈夫、任せて!」

 それでも知佳は自信たっぷりだ。

「今回は一発芸です。見逃すと勿体ないですよ。よーくご覧下さい」


 周りに女子どもが集まってくる。

 その視線がとっても怖い。


「さあ蒼生落ち着いて、まず左手でマイクを持つ姿勢」

 何かわからないが言われたとおり左手を曲げて拳を口の斜め前へ。


「右手は軽く下に伸ばす。そして左足を軽く横に引く。うん、その位置」

 何をやらせる気だろう。

 そこで知佳はにやりと笑って呪文を唱える。

「フリーズ!」


 おい待て、動けないぞ。

 何をする気だ!

 知佳は俺の背後に回って俺の下腹部でなにやら操作。

 フリーズかけられて見えないけれど何やらズボンをいじられている気配。

 おい何を考えているんだ。

 気を確かにしろ!


「それでは蒼生の一発芸、逝きます!ミケランジェロ作、ダビデ像!」

 一気にズボンを下着ごとずり下ろした。


 うわっ!わあああああああ……

 俺は魔法で動きを止められている。

 叫ぶことすら出来ない。

 そんな俺の周りで巻き上がる黄色い歓声。

 ばたばたっと見える限り全員の手が上がる。


「見事です!合格!」

「お粗末様でした。解除」

 動けるようになった俺は慌ててパンツをズボンを引っ張り上げる。

「なんて事をするんだ、お前は」

「でも合格できたでしょ」

 おいおいおい。


「後で参考資料としてもう一度じっくり見せて」

 誰か知らない女子にそんな事を言われる。

「だが断る!」

 勘弁してくれ、全く。


「それでは三人とも合格という事で。ようこそ想像創作愛好会へ」

 沸き起こる拍手の中で俺はまだ正常な脈拍に戻れない。

 なんだよここは。

 もうお家帰りたい、本当に。

 悪い魔女が出るから一人で帰れないのだけれども。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る