その3 妄想汁は止まらない

「鈴木君ごめんね。知佳は悪い子じゃないけれど少し妄想が暴走する癖があって」

 少しじゃないと思うぞこれは。


「仲町さんと小川さんって同じ中学だっけ?」

 この質問は俺の左横の肩までの髪の一見大人しそうな子。


「うん、上水学園女子中。周り女子しかいなかったから色々こじらせているんだ。あと私はみどりでいいよ。小川も知佳ちかで」

「じゃあ私も亜紀乃あきのでいいよ」

「同じく夏美なつみで」

「私も美夏みかで」

「なら鈴木君は蒼生あおいだね」


 勝手に名前読みに決められてしまった。

 女子のコミュニケーション恐るべし。


「それで改めて、蒼生は攻めと受けどっち」

「だから知佳、いきなりそれは無いって」

「だってポジションは妄想上重要だよ」

 知佳さんは拳を握りしめそう主張。


「だから世界は知佳の妄想のために回っているわけじゃないから」

「だってやっと女子しかいない空間から共学校に進学したのにこの状態だよ。取り敢えず手近な蒼生でハアハアしないと呼吸もできない」


 翠さんはため息をつく。

「知佳はこういう性格だからね。親も女子校以外は無理って諦めていて。それでもどうしても共学行きたいというからここだけはOKにして貰ったんだって」


「なるほど、よくわかる」

「うんうん」

 本人以外全員が頷いた。

 俺も激しく同意。

 こんなの普通の共学に置いておいたら危なくていけない。

 今でも充分危険物だけれども。


「あと攻め受けは喜平君と組ませても重要だよね。BL的に」

 知佳さん更に暴走。


「知佳、だから暴走しすぎ」

「でも男子は校内に二人だけだし、体育の時は絶対二人で組になるよね。幸いどっちも絵になるし。だったらやっぱり攻め受けは重要だよ。やっぱ小柄な蒼生が受けかな。二人きりの更衣室で長身の喜平君が壁ドンしたりして。

 あ、でも両方バイなら更に楽しいかな」


「流石にそういう趣味は無いな……」

 何とかそう躱すのが精一杯。


「無いなら今後育めばいいじゃない。あ、でも女子混合でもいいか。二人じゃ何の競技も出来ないものね。二人で可能なのはいろは四十八手くらい? ねえ蒼生は何Pまでイケる口?」


 おいおい。

「前でも後でも大丈夫? 後の穴はペニパンOK?」

 知佳さんが右から迫ってくる。

 おい誰か!


「教育的指導!」

 翠さんのチョップが入った。


「やられた……知佳は死すとも妄想は死なず! 我が妄想に一片の悔い無し!」

「やっとれんわ」

 更に翠さんがとどめの一発。

 うん翠さんナイスチョップ。

 でも出来ればもっと前に止めてほしかった。


「まあ知佳のは妄想だけで実践は伴っていないからね。心配しなくていいよ」

 おい翠さん、実践なんて生々しいこと言うな。

「女子校にいると色々こじらせるのが多くてね。百合の花は満開だし」


「それって噂では聞くけれど本当なの?」

 亜紀乃さんが興味深そうに尋ねる。

「本当よ。クラスに二組はカップルいたしね。先輩後輩の組も結構あったし」

 翠さんはそう言ってため息をつく。

「冗談じゃ無く背景に薔薇の花が入ってそうな組み合わせもいたしね。でもここも女子校みたいなものか」

 うんうんと俺以外全員が頷く。


「蒼生も喜平君も耽美な感じ似合いそうだものね」

 再び復活してもっともらしく言う知佳さん。


「おまいは少しだまっとれ!」

 翠さん三発目のチョップが入った。

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