その2 心安まらない昼休み

 さて、昼飯はどうしよう。

 一応コンビニでパンとドリンクは買ってきてある。

 朱莉さんこと鈴木先生に手弁当を期待する方が無理だからな。

 喜平くんとでも食べようかと思った時。


「ねえ鈴木君、一緒に食べよ」

 周りの席の女子に囲まれた。

 やばい。

 心拍数が五割程上昇する。

 いくらギリ対象内程度でも女子に囲まれたら無着苦茶焦る。

 今までに無い体験だからな。


「わ、わかった」

 そう答えるのが精一杯。

 あれよあれよという間に俺の机まで場所移動して六人ひとかたまりになる。

 恐ろしい事に俺の席は中央。

 勘弁してくれと言えない弱さが辛い。

 あと美園さんは別のグループ。

 それがちょい悲しい。


 まあ仕方無いので弁当代わりのパンとドリンクを机の上に出す。

 郷に入りては郷に従え。

 これも限りなく女子校に近い環境で何とかやっていくためのステップだ。

 頑張れ俺!負けるな俺!


「あれ、鈴木君はお昼はパンなの?」

「叔母の家に居候中だけれど叔母も働いているから」

 あえて正体が鈴木先生だとはまだ言わないでおく。

 まあ鈴木先生こと朱莉さんは三年生の担任でこのクラスにはまだ知られていない。

 内部生ならともかく外部進学生ならその辺はまだ知らないだろう。


「何なら私が作ってきてあげようか」

 右隣りに座った目の大きい活発そうな子がそんな事を言ってくる。

 おいおいいきなりかよ。

 確かに小柄で胸小さめでちょっと俺の好みだけれどさ。


「いいよ。朝パンを選んで来るのも楽しいし」

 取り敢えずは無難にそう断っておく。

 最初からがっつく奴は得物が少ない。

 ここは取り敢えず待ちの姿勢だ。


「ねえ、ところで何で鈴木君はこの学校を選んだの」

 彼女の質問は続く。

 でもこの答えも事前問答で作成済みだ。

「この学校に知り合いがいてさ。万が一の際知り合いがいた方がいいだろうということで」


「この学校の先生?」

 仕方無い。

「ああ、三年の担任をしている。鈴木っていう理科の先生」


 まさか知らないだろうと思ったのだが。

「あの若くてスタイルがボン・キュッ・ボーンな先生ね」

 その汚らわしい体型表現だと奴に間違いないだろう。

 こいつ、知っていたか。


「知佳、知っているの?」

 知佳と呼ばれた女子はうんうんと頷く。


「勿論、美味しそうなのは先生も生徒も男も女もチェック済みだもん。そうか、鈴木先生か……」

 彼女は怪しい笑みを浮かべる。

「それで鈴木君は攻める方? 攻められる方?」

 何だそりゃ!

 俺はとっさに返答出来ない。


「知佳、暴走しすぎ」

 彼女の前に座ったお下げの子が抑えてくれた。

 俺の対象外だが友達としては付き合いやすそうな大人しめに見える子だ。

「この子中学の時から妄想酷いのよね。特に禁断の愛系統が大好きで」


「だってあの若くて美人ムチムチな若き女教師と鈴木君だよ。ぜったい似合うって。絵面的にはやっぱりSM系が似合うかな。先生は黒革製の装束上下で鞭持たせて鈴木君は全裸に後手に縛られて。三角木馬の上に載せておくのがいいかな。ねえ鈴木君ひょっとしてもう調教済み?鞭は長いのと短いのどっちが好み?」


 そう言いながらだんだん俺の方へ迫ってくる。

 おいちょっと待ってくれ。

 流石にこんな質問は想定していない。

 確かに毎夜調教されているが道具は使っていない!

 俺が返答できないでいるとお下げの子が止めてくれた。

「知佳、妄想汁出過ぎ、やり過ぎだから初日から」

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