第1章 妄想少女と賢者の石

第3話 教室も油断禁物

その1 ホームルームを耐え忍べ

 右も女の子、前も女の子。

 ぶっちゃけ三十五人中男は俺ともう一人の計二人。

 おかげで非常に落ち着かない。


 なお現在は入学式の後のホームルーム中である。

 前でクラス担任の中年女教師が何やかんや説明中。

 中年女の自己紹介など聞きたくも無いので半分無視。

 名字は津田で国語の担当だと言う事がわかれば充分だ。


 さて、この桜景学園は中高一貫の昨年まで女子校で今年から共学校。

 高校へほぼ中等部からの内部進学で高校から入学する生徒は一クラスだけ。

 ここE組がその外部生クラスだ。

 元から固まっていない分だけ他のクラスよりましなのだろう。

 でもここまで女子ばかりだと本気で落ち着かない。

 唯一の男子である喜平君とは席が離れているし。


 それにそもそも俺は元々三十歳過ぎのニートなのだ。

 ほぼ引き籠もりだったりもする。

 買い物くらいは何とか行くけれど。

 そんな体質でこの環境に耐えろと!

 色々厳しすぎる。

 もうお家帰りたい。

 家も安住の地では無いけれど。

 布団に猛獣が出るし。


 さて、ホームルームは自己紹介の時間へと移った。

 右側前の女の子から順に自己紹介を始める。

 まあ名前と出身学校位の簡単な奴だ。

 俺は教え込まれた設定通りのシナリオを書いて順番に備える。

 なお俺の席は左の窓際最後部。

 つまり自己紹介は一番最後だ。


「初めまして。廻田中学校から来ました喜平きへいとおると言います。宜しくお願いします」

 喜平君が無難に挨拶を済ました。

 奴は細身で身長が高く、整った顔で睫毛が長い昔の少女漫画風の美少年だ。

 さぞかしこの学校ではモテる事だろう。

 精々頑張って欲しい。

 俺の盾として。

 勿論友情を育むのにはこしたことはない。

 何せ学内にいる俺以外唯一の男子生徒だからな。

 その辺は考慮しないと。


 他にも俺注目の生徒はいる。

 その子が自己紹介に立ち上がった。

「大沼中学校から来ました美園みその彩葉いろはです。宜しくお願いします」

 うん、名前も可愛いけれど声も可愛い。

 控え目過ぎる胸の膨らみも低い身長も完璧だ。

 無論すぐに手を出すわけじゃないが要チェック。

 手を出すのは下調べを完全にしてから。

 だいたい十数年女子と会話したことも無い俺だ。

 無理はすまい。

 まずはオトモダチになる前にクラスメイトから。

 あ、既にクラスメイトにはなっているか。


 さて、前の席の女子が自己紹介を終えて座った。

 俺の番だ。

 集まる教室中の視線。

 気にするな、あれはカボチャだと思え。

 意識するなら美園彩葉ちゃんだけ!

「鈴木蒼生です。身体が弱いので暫く奈良の病院付属の中学校にいました。普通の学校に通うのは久しぶりです。宜しくお願いします」

 よし無難に挨拶したぞ。

 ミッションクリアだ。 


「それではこれで休憩にします。午後は一時十分から課外活動のオリエンテーションがありますから、それまでに着席するように。以上です」

 そんな訳でお昼休憩だ。

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