さしゅごしゅ! ⑥-1-1

「そういうことです。ですからおとなしく私に捕まり、魔道具として魔王様の依り代となるのです。まぁ万が一私を倒すことができたなら? 生きながらえることも出来なくはないかもしれないかもしれないですがねぇ。ふっふっふ。ふはははは!」


「…………」


えっと。


なんなの。そのとってつけたような設定は。物語都合甚だしくない?


魔王が倒されたところから始まる物語は必ず中盤以降に魔王が復活するかその娘が出てくるっていうのがお約束だって新世界で見たけどまんまじゃん。ひねりのないパクリじゃん。お約束って手抜きの事? 様式美って解説されていた気もするけど様式美とは何なのか。


まぁあの魔王に娘なんて絶対いないだろうから復活に姫を使うっていうギミックはまぁそうなのかなぁと思えなくはないよ今思えば。


思い返してみれば姫救出イベントってスルーしても魔王を倒せる何の意味もない欠陥イベントだった。姫イベントスルーで抜けられる洞窟にあえて姫を置きその場をドラゴンに守らせるってどういう意味があるのかずっと謎だった。姫を救出し王女の愛とかいうオルゴールもらったけどアレ結局魔王倒すまでの道中で何の役にも立たなかったしね。キーアイテムでも何でもないの。王女を助けず冒険進めても本当に全くなんの支障もなかったんだよね。


あれってはっきり言ってアレだったんだろうね大人の事情的な。あのままスルーして魔王倒してたら姫は魔王の依り代となり復活して、伏線ここに成就セリ! ってどや顔で頭のおかしいゲームマスターホリーは俺らにユージを強制させるつもりだったのかもしれない。知らんけど。


はっきりいってこの胸に渦巻く感情に気を狂わされそう。この気持ちをぶちまけたところで周り一帯を灰燼に帰することは出来るけれどこの糞イベントは解決すまい。復活する魔王をその依り代候補である姫もろとも消去すれば解決、なんてシナリオ俺には選択できない。頭のおかしいゲームマスターホリーもその辺りは当然織り込み済みのはず。


ならばここは黙って乗るしかないのだろうこのビッグウェーブに。


「盛り上げているところすまない。お前に一つ聞きたいことがある」


「え? なんです?」


どや顔でこちらを睥睨する魔術師風衣装の少年。その様はまるでフカシた三流悪役。余裕に満ち溢れた態度が当て馬感半端ない。一方俺の顔を見て俺の言葉を遮ろうかどうかを吟味している姫。はっきり言って姫の方がだいぶ大物感がある。


「赤カブトって聞こえたんだが、それって熊だろうか」


「豪傑熊一族を率いていると聞こえませんでしたか? 説明しなければわからないでしょうかねぇ。これだから低俗な人間風情は」


「あ、いや、そうじゃなくてだな。ついこの間、お前の言う名前の熊とその他大勢を駆除したのでな。同一人物……同一くまぶつ? だったらすまないなと思ってな」


「…………はい?」


少年、めっちゃ目を泳がせている。


本気でそういう仕草する人、久しぶりに見た気がする。小物感がヤバイ。


なんかごめん。知らなかったんだよ、あの熊がそんな重要なキャラだったとは。


〈―― 威気制圧ソウルホロウ・レベル1 ――〉


「――っ?! うひゅぃ?!」


俺のスキルをもろに受けて、身を乗り出していたローブ姿の少年がドスンとバルコニーから地面に落ちた。


下はふかふかした芝なので大怪我はしていないと思うが、そこそこ痛かったのか苦痛に悶えている。


「いたひ……うぅう、なんです? なんなのですこの感覚は! ……貴方はいったい?!」


もがきながら、少年は驚きの表情で俺を見上げる。


俺はそんな少年に一歩近づく。


「茶番はもういい。魔王死すべし慈悲はない。関係者も以下同文。選べ。今死ぬか? 後で死ぬか?」


眼帯の少年は顔色を悪くし表情を歪ませ引きつらせている。信じられないものを見るような顔。相変わらず目がきょどっている。


「貴方何者ですか! こっちが聞いているのですよ? 答えなさい!」


――ほう。〈―― 威気制圧ソウルホロウ・レベル1 ――〉を受けて喋れるのか。レベル1だったとはいえ大したものだ。レベル2にしたら死んでしまうだろうが。


殺すのは容易いが、姫の前で子供の姿を持つ者を殺すのはどうなんだろう。ちょっとためらわれる。この場ではそれっぽく尋問だけをして殺すのは後にすべきか。


「その前に魔王の復活について尋ねておくか」


「はん! 誰が答えますか! こっちが先に聞いているのに答えないような無礼な奴に話すことなどないわい!」


「ふむ。ではこちらが名乗れば答えるのか? なら名乗るか。俺の名前はアトラス」


「は? 今度は偽証ですか? 何がアトラスですか勇者の名前を出したくらいで魔王軍が驚くなんて思わないでください? こう見えて私はハーゴン級のアークビショップなのです! そんな小細工程度でひるむなんて考えないで欲しいものですね! ……え?」


信じる気皆無の少年の態度に、俺はアイテムデポから聖剣を引っ張り出す。


「これはプロパガンダ用に作られた名もなき剣、という事になっているが――」


鞘から引き抜かれた刀身が青く輝き、その光を見た少年の目がくわっと開かれた。


「――お前が魔王の関係者だというのなら、コレの噂くらい知っていよう?」


「それは……もしかして、魂砕喰剣ソウルイーター?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る