さしゅごしゅ! ⑥-1-2

「はっはっは、なるほど。人種族ひとしゅぞく間では、これは聖剣エクスカリバーと呼ばれているんだ。が、そうかそうかお前は知っているのかコレの忌むべき欠陥を。ならば魔王軍の幹部に近い関係者という事で間違いはなさそうだな」


「そんな……そんなどうして、どうしてあなたが――」


「どうだろう。そろそろ俺が勇者であると信じる気になってもらえただろうか。もう一度言うが、お前がさっき言ってた熊のなんとかな。本当にすまない、俺が成り行きで駆除してしまったんだ。お前の関係者だとは知らなくてな」


「な!? アレを倒したというのですか!? 殺しても生き返ってくるアレを……」


「あんなものただの偽死スキルではないか。魔王の同盟者の何某とかいう吸血鬼もどきに比べれば雑魚もいい所だ」


「そ、それはまさか、始祖ヴァンパイア・ジ・オリジンジュラ様の事を言っているのですか?」


「そうそれだ、確かそんな名前だ」


「……えっと、あの。あぁ。そう、ですか。そうでしたか……ふ、ふっふっふ。なるほど。なるほど。つまり……この邂逅は世界の選択せしさだめ、と。ふっふっふ……さらばです!」


少年は急いで立ち上がり、ジャンプ――して着地した。


「……あれ?」


少年はもう一度ジャンプ――して着地。


もう一度ジャンプ――して着地。


ジャンプ――着地。


「あ、あれ? お、おかしいですね。なんで飛べないのかな?」


ギギギギ、と、錆びたブリキの人形のように首だけこちらに向ける少年。


何かしら思い当たることがあったと言わんばかりに。


「ま……さか?」


そしてへたりと、その場に女の子座りした。


「知らなかったのか? ――勇者からは逃げられない」


「ひっ?! なんで、ほんもの!??!」


盛大に顔を絶望にゆがめて身を掻き抱く少年。その時小刻みに震えていたのは、その場で漏らしてしまったからなのか。


おしっこすると震えが走ることって、あるよね。




◇◆◆◆◆◇◆◆◆◆◇◆◆◆◆◇◆◆◆◆◇◆◆◆◆◇◆◆◆◆






王城敷地内で待機していた一団。


油断なくあたりを見回していたギンに主人から思念が届く。


『ギン。休憩中すまないがオルトロスを集めてくれ』


それは予定されていた合図ではない。


なにごとか。


ギンだけではなく、隣で伏せてぼんやりしていたリキも警戒し立ち上がる。


『いつでも動けます主様あるじさま。ご指示を』


『王城に翼竜が向かってきている。北西方向。数は八十か九十くらいだ。全オルトロスを率いて追い払ってきてくれ』


『かしこまりました主様あるじさま


オルトロスはケルベロスに比べて備えているスキルが一つ少ない。だがその分走破性や俊敏さでケルベロスを上回る。一団を統括する白銀の魔獣が一声吠えると、広場に散っていたオルトロスらが一斉に走ってきて長の前に整列した。


彼らは、この群れの長である白銀の魔獣――ギンの合図を待つ。


大親分ボス、殲滅してしまっても?』


『リキか。構わないが、儀仗兵は動かすな。ギン以外のケルベロスは留守番し守備に徹してくれ。留守の指揮はリコに任せる』


『承知しやした』


思念伝播はそこで途絶える。


軽いため息をつくギン。


それを見てニヤリとするリキ。


「親父、難易度をあげないでくれよ」


「馬鹿野郎。芋引いてんじゃねーぞ。イケる時にぶっこまないでどうするよ。てめえのキンタマは飾りか?」


「ったく、ほんと脳筋だな。家長アンダーボスは俺だってのに」


「いいからほら、早く行くぞ。羽根付き蜥蜴がきちまう」


「わかってるって。――よしお前らいくぞ! 観光気分のトカゲどもに流れ星一家の漢気を見せてやれ! サーチアンドデストロイだ!」




◇◆◆◆◆◇◆◆◆◆◇◆◆◆◆◇◆◆◆◆◇◆◆◆◆◇◆◆◆◆




翼竜の集団を迎撃したその日の夜、異例の早さで授賞式が執り行われた。


「此度の働きは誠に大儀であった。ここにその栄誉を表し、キルヒギール伯爵を辺境伯とするとともに、柏付ロイヤルヴィクトリーグランドクロス勲章を授ける」


論功行賞は王国の最大の勲章をもってなされた。それによって俺の立場は、国王直属雇われ店長から地方統治事業の決裁権を持つ所長へと格上げされる。


式典は王族と上級貴族のみしか入ることを許されない鳳凰の間で行われた。


どういうわけでそうなったのかは知らないが、こちらとしては人が少ないのは願ったりかなったりだ。貴族のやり取りは小心者の俺にとってトラウマものだからにして。


「おめでとうございます。キルヒギール伯爵」


だがまたまたどういうわけか、その場にはダールも参列していた。俺と国との仲介役として活躍甚だしい大商人の事、特別枠でもゲットしたのだろう。普段はたいして合わせたくない顔なのに、こういう場所だと少し安心してしまう自分が悔しい。


「ここで会えるとは思わなかったぞダール」


「私も貴方の受勲の場に居合わせられたことを喜ばしく思っております」


「なんだ。お前にしては珍しい物言いではないか、喜ばしいなんて」


「そんなことは御座いません。私は商人ですから、利益に対しては等しく喜ばしく思っておりますとも」


「利益……あぁそうか。辺境伯になると権限が増えるとかそういうのか? それとも勲章の威光が使えるとかそういうのだろうか」


「まぁこんなところで立ち話も。場所を移しましょう」


そう言われ、俺はダールにひょこひょこついていく。


今思えば、この時の俺はちょっと舞い上がっていたのかもしれない。だって表彰とかされたらやっぱ嬉しいもの。権力には全く興味がないけれど、みんなにすごいねーとかおめでとーとかいわれたら、どうしたって少しくらい嬉しくなっちゃうじゃん。


でもそういう時ほど警戒しなければいけないんだって、このあと俺は知ることになる。

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