天空の城 ②-1-1

誤算。


とんだ誤算。


烏女って言ってたのに。あれじゃまるで吸血鬼だ。


破瓜で痛めつけるどころか逆に戦意向上され――しかもその力甚だしく――「我に余剰戦力なし。現有戦力をもって己の職責を全うせよ。言いたいことがあればいずれヴァルハラで聞く」のセリフが脳裏をよぎった。


もうひどい。小さななりして求め方が半端ない。えげつない。烏女でも女王は別格なのか。


すぐに飛んだので楽勝かと思いきや再起動後の豹変がボスの最終形態かと見まごうばかり。ほんとギリギリの勝利、いや、結局出して倒れてしまったので引き分けか。


烏女をダウンさせ寝かしつける頃には空が白み始めていた。


戦闘以外で肉体強化魔法の使用を考えたのは初めてだ。魔法がなければ次の戦い、落とすかもしれない。


幸せそうな笑みを浮かべて眠る烏女の女王の横で、俺は疲労困憊による睡魔に引かれて眠った。ああなんてことだ。どうしてこうなったのだ。




◇◇◇◇◇




目を覚ますと一人だった。


逃げようと試みてでもいるのかと思い拠点内のレーダーログを確認する。


ディオネは一時間ほど早く起きてあちらこちらを移動していたようだ。


移動場所とパターンを見るに、どうもトイレを探していたように思われる。


そうか。トイレ教えてなかったな。うっかりしていた。


トイレの機材操作ログを見るとウォシュレットが動いたログがあった。偶然触ったのか?


まさか使い方知ってたとかないよな。いやいや、考えすぎか。


その後は厨房へ移動している。


腹が減ったのだろう。


そこでオートマトンに捕縛され、地下の座敷牢へ放り込まれたようだ。


ふむ。


面白い奴。


俺は座敷牢へ向かう。


「あ、ご主人様」


申し訳なさそうな顔。


続けて出される謝罪。


俺の許可なくうろつきまわるとは。謝ってすむものか。


考えてみろ。例えば初めて訪れた友達の家でだ、トイレだけならいざ知らず、台所に入ったりするのって普通に常識を疑われる行動だよ。お前は人様の家の冷蔵庫を勝手に開けてしまう輩ですか?


家の中をうろつきやがって。非常識極まるマナー違反だ。


女王だったから調子に乗っているのか。ここは罰として鞭で百叩きにでもしてやろう。その皮膚を引き裂いてやる。


俺は行動しようとして――ふと、思い出し立ち止まる。


――そういえば、この女は痛みに快感を得るのだったな。


先刻。


伝説の剣で一思いに突き刺した時、この女は破瓜の痛みで泣き叫ぶかと思いきや逆の反応を示した。


一撃で喜びの境地、極楽浄土に飛んだのである。


キュンキュンと締め付けるツボの動きに驚き、俺としたことが思わずちょっと漏らしてしまった。――まぁそれは久しぶりだったせいもあるのだが。


そしてそのあとの火の付きようたるや。


恐るべきは痛みを快楽に変える逞しさよ。


さすがは奴隷というところか。


ゆえに鞭打ちでは罰とならない。


奴隷の特性を思い出した俺は暴力を封印する。


ここは逆に優しく注意すべきだ。その方がきっとあの女にとっては苦しいはず。


そうしたほうが期待した痛みを与えられず乾くはずだ。飢えるはずだ。


ふっふっふ。これからお前をたっぷりいじめてやるよ。お仕置きタイムだ。


俺は牢からディオネを出す。


「ご主人様に朝食のご用意をと」


「よい。皆まで言うな。お前の気持ちだけ受け取っておこう。ついてこい」


「はい! ご主人様!」


つとめて明るく返事をするディオネ。


ふふふ。せいぜい演じるがいい。お前の底が見えるまで付き合ってやろうではないか。

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