神樹騎士団 ⑤-3-3
「むぅ? 女はどこです? マーキングの位置がずれているじゃありませんか」
辺りを忙しく見まわし状況把握に努めるローブ姿の何者か。
聞こえてきた声は高い。女か。はたまた子供か。
「あの、伯爵――」
「お静かに」
「おんやぁ?」
姫の声を拾ったのか。ローブ姿の何者かはバルコニーの下を覗き込む。
「ふはははは! 見つけましたよ生贄の女! さぁ、早速魔王様復活の儀式を始めようじゃないか!」
その姿は子供。
右目を眼帯で隠した、十代前半と思われる少年。
見るからに只者ではない、悪い意味で。いきなり現れて三流漫画のようなことを言うあたりにとても気持ち悪いものを感じる。
「すみませんが、どちら様でしょうか」
でも、もしも何かの催し物とかの王国関係者とかだったらあとが面倒くさいことになるので、念のため俺は敬語で対応する。
「ふはははは! 我が名は新魔王四天王が一角! 魔魂祭司イスカ=プタゴラトン! さぁ! 震えるがよい! 怯えるがよい! 震えて怯えて月を見る度思い出せ!」
全然関係者じゃなかったわ。
むしろ害敵だったわ。俺を前にして魔王関係者とか名乗ったし。
昼間なのに月を見るとか言い出したあたりポエマーの素質があるのかもしれないがそういえば中二病という病は日常生活に支障をきたす精神の病の亜種だという話を思い出した俺は少年を注意深く観察する。
「きゃあ! あなた! たすけて!」
と、それを邪魔するようにこれ見よがしに抱き着いてくる姫殿下。なんだろう、彼女は相手の中二病にノリを合わせて遊んでいるのか――いや違うわ。これ結婚の為の外堀を埋めようという企みだわ、あわよくば的な。この姫さん利用できるものはフルに利用しようとするタイプか。
「ふっふっふ。生贄の女は確かニンゲンの国の姫であったはずですから、しかるに貴方は姫の従者――あなた? それは人間族の言葉で配偶者を呼ぶ時の単語? ……まさか、従者ではなく夫?!」
「いや違――」
「そうよっ!! 私はこの人の嫁なのよ!!! この痴れ者っ! 下がりなさいっ!」「ちょ、ひめっ――」
待って。勝手に姫から嫁にジョブチェンジしないで。
あとこの姫、声がめっちゃ通る。拡声器使った時の音量並。それ魔術なの? それとも〈――
「なるほど。既に婚姻していたとは。ならば急がねば。子を産まれるとアレが割れてしまいますからね」
一方そんな姫のその声に度肝を抜かれた少年は憎々しげな表情を浮かべこちらを睨む。言ってることは意味不明だがその形相はリア充爆発しろと言わんばかり。だがそれ誤解です。
「待ってほしい、まず訂正を――」
「いったいなにをしようというの!!」
少年の勘違いを訂正しようとした途端に入るインターセプト。姫必死じゃん。絶対ワザとやってるじゃん。無理に訂正をねじ込んだら姫の報復が成される気がして黙ってしまう俺はさながら権力に膝まづく小市民。無理だよそんな度胸なんて咄嗟には出ないよ勇者でも怖いものは怖いよ。
「ふはははは! 知りたいですか? ならば冥途の土産に教えてあげましょう! 貴方は魔王様が死んだ時の保険なのです!」
「えっと――」
「えっ! それはどういうこと!?」
そして尚も俺に訂正をさせてなるものかとばかりに話しを進めるレイバープリンセス。結婚の為ならヤバそうな切り出し方してるイベントですら強制進行推して参ります! とか肝が据わり過ぎでは。どんな人生を歩めばそうなってしまうのか。
「貴方の知るところではないですが、今回は特別に教えましょう。魔王様は成長した貴方に飽きた頃、貴方にある術をかけました。自分が万が一死んだ時にそなえ復活できるようにと」
「な、なんですって!? それはいったい?」
「ふっふっふ。いいでしょう教えてあげましょう! そして知って絶望なさい! いいですか? 貴方が十五歳になった時、魔王様の生死に関わらずその儀式術は完成し、貴方は生きた魔道具となるのです!」
あ。姫って15歳なんだ。年上じゃん。もしかして俺ってば姫にバブみがあるとか思われてんのかな。だとしたらちょっとやだな。おっぱいはそこそこありそうだけど俺はおっぱい星人ではない。おっぱいを押し付けられても赤子のようにむしゃぶりついたりはしない。これでは結婚しても失望させてしまうかもしれないな。
「っ! そんな!」
「ふははははは! 可哀そうですが、悲観してももうどうしようもありませんよ? それに我々は、今日の襲撃計画に備え準備を整えてきました! もうじきここへは魔王軍が押し寄せます。空からは地を焼き尽くす我が翼竜軍団が! 地上からは人間どもを蹂躙するべく豪傑熊一族が! しかも驚きなさい。地上軍の指揮をしているのは我と同じく新魔王軍四天王が一角、通称赤カブトの破壊熊王マスターピーなのです! つまり貴方たちの運命はこれまで! 絶対に助からないのですよ! ふははははっ!」
「そんな、なんてこと。……どうせ死んでしまうなら、最期に結婚をしてみたかったわ」
「…………」
「叶うなら花嫁衣裳を着てみたかった、そしてヴァージンロードを歩いて――」
「…………」
「願わくば生涯の伴侶と共に、大勢の人々から祝福を受け――」
「あぁせめて結婚――」
「…………」
悲嘆にくれる悲劇のヒロインを凄い早口でひと噛みもせず演技するお姫様15歳。
チラッ、チラッと節々で俺を盗み見てくるのやめてくださいプレッシャーで吐きそうです。
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