神樹騎士団 ⑤-2-3

「勇者アトラス、いや、キルヒギール伯爵。よくぞ参った、大儀である」


姫の誕生日を祝うパーティー会場にて早速王様に捕捉される俺。出会い頭に歓迎のお言葉をかけられる。


「お招きにあずかり恐悦至極に存じます」


とりあえず臣下の礼。


王様はにこやかに迎えてくれる。けど周りの貴族の視線が痛い。


アイツら俺が兵隊引き連れて王城の正面から入ってきたのがよほど気に入らなかったのか、最初からずーっと塩対応。


こっちはみんなに喜んでもらおうとサプライズで金かけてあれこれ準備してやってきたってのにまるで効果なし。


まぁ城下町の住人には非常にウケが良かったのでいいけども。


これだから貴族は嫌なんだよ。漫才会場に来ておいて「俺はそんな漫才じゃ笑わねーよ」って斜に構えてる玄人気取り勘違い糞野郎と同類にしか見えない。


もうこんなのやめてやるよ。お前らと同類になるなんて反吐が出るね。爵位なんか叩き返してやるよ!


と思いながらもダイレクトアタックは場を荒らしてしまうと流石にわかるのでそれとなく王様に貴族辞めたいですアピールをする。


「領主としての勤めも滞りなくこなしていると聞く。王国繁栄の為、その采配を今後も振るってくれキルヒギール伯爵」


「もったいなきお言葉、恐れ入ります。――しかしながら王様。私は寡聞小見の身。伯爵の権威を持て余す日々でございます。ましてやこのような華やかな場など、無骨な元平民の私めには甚だ相応しくないと存じますれば、今後はどうか私めのことはお気遣いなさいませぬよう平にお願い申し上げます」


「何を言うキルヒギール伯爵。魔王を倒した勇者に気をかけぬなど王の沽券にかかわるというもの。それこそ国の恥。王として示しが付かぬというものだ」


「ありがたきお言葉恐れ入ります。私のような非才の身に伯爵位など過分な恩賞を賜りましたことも含め、感謝にたえません。ですが王様。私は勇者としての務めを果たしたまでのこと。伯爵位にふさわしいかは問題を異にするものと愚考する次第でございます。王様の温情を良いことにかような権力をいただくなど、それこそ周りの方々に示しがつかぬというもの――」

「キルヒギール伯爵。権力とは、それを獲得した手段ではなく、如何に行使したかによって正当化されるのだ。世界に平和をもたらした勇者の行いに不足などあろうものか。不足があるとすればそれは余のほうである。余は娘の縁談の件をまだあきらめたわけではないのだがな」


「いえ、その、それは……」


なんという不意打ち。このおっさんまだ自分の娘を俺にあてがおうとしていたというのか。


王様が貴族すぎてちょっと引く。少しは娘の気持ちも考えてやれよこの貴族原理主義者が。


「はっはっは。まぁよい。堅苦しい話はこの辺にしておこう。今日は娘を祝ってやってくれキルヒギール伯爵」


「はっ」


王様、舌戦を勝利で締めくくり身をひるがえす。


くぎを刺しに来たつもりがこれではやぶへびである。


あぁもう俺のザッコ。


◆ ◆ ◆


それからは地獄の宮中腹芸タイム。


腹芸リーグ(パーティ会場戦)ルール。


身分の低いものは身分の高いものに話しかけてはいけない。

身分の高いものは身分の低いものに話しかけ、かつ身分の低いものはそれを拒めない。

身分の高いものは敵対派閥以外の一定以上の身分の全ての貴族に話しかけなければならない。


つまりどの派閥にも属していない俺の元にはわんさか上級貴族が話しかけてくる。


まさに腹芸の洗礼。レベル1の駆け出しに中ボスが連戦を吹っ掛けに来る構図。


塩対応どもが仮面をかぶるとあら不思議。親類かと思うくらいに親密な雰囲気をまとう。


人間不信になるよ。何が本当かわからない幻想世界の始まりだよ。例えるなら貴族の社交はキングオブクソゲー。スペランカーより無理。とてもラスボス第三王女に辿り着ける気がしない。


しかし俺は逃げ出さない。


違う。逃げられない。何故なら俺には宮中の命綱ダールによってスペシャルなアイテムが取り付けられていたから。


それはダールの秘書。


凄く若い男だが、若手のホープらしく有能だ。俺はこれを前面に押し立てることでなんとかその場をやりくり。


「キルヒギール伯爵。今度是非我が家の舞踏会に――」「キルヒギール伯爵。次はうちの甥の成人の会に――」「キルヒギール伯爵。次は当方の演武会に――」「キルヒギールはく――」


ノーサンキューノーサンキューノーサンキューのおおさんきゅううううう!


おうまいがっ! もうやだかえりたい! おっさんどもの作り笑顔気持ち悪いナリ!


やたら握力の強いこの秘書をデコイにして帰りたいです。

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