神樹騎士団 ⑤-2-1
「お誕生会にご出席ください」
ダール商会で森での討伐成果を吐き出した俺は、呼び止められ別室に通されていた。
何事かと思って待っていたら開口一番、ダールから登城要望。
「宮廷の話はお前に一任したと思うが」
「予定通りことが運ぶと思い込まれませんよう」
一か月後、エランシア王国第三王女の誕生会が催される。
以前から貴族らには招待状が届いていたらしいが、俺のところに届いたのは昨日だという。
時差の理由はわからない。一度結婚を断っているからか。それともまだ貴族として認められていないからか。
どちらにしても悪い予感しかしない。
陰謀か。
罠か。
なんにしても碌な事ではないに決まっている。当然お断りのお返事をする。
「俺は魔王を討伐した。勇者として務めを果たした。爵位も形だけの義務をこなしてくれればいいと王は言った」
「ならばこの招待状は形だけの義務の範疇ということでありましょう」
「宮中の腹芸は無理だ。だからお前に権力を渡しただろう? その範囲で何とかしてくれ」
「ならばお預かりした権力では足りぬとご理解ください。今回のご招待は王女様自ら、たってのご要望です。嘆くなら、おのが行いにお願いします」
「なんだと? 俺が一体何をした」
「何をした、ではなく、なすべきことが足りなかったという事でしょうな。嫌なら建国し王になられればよろしかった」
「待てあわてるな。これは孔明の罠だ。国を立ち上げるなど俺の頭では無理だ」
「ならば、ご出席ください」
「いやそれも無理だ。俺は今王に下された討伐令の遂行で忙しい。とてもそんな会に出席している暇はない。現在進行形で忙しいと伝えてくれ」
「この話の流れでそれこそが無理だとご理解いただけませんか? なさるならご自分でどうぞ」
「ダール――」
「人間には現在は無論大切ですが、どうせなら過去の結果としての現在より、未来の原因としての現在をより大切になさるべきでしょうな。俺は元勇者だから、などと今後も言って回られるのですか?」
「…………」
腕っぷしならともかく、弁の立つ商人に舌戦でかなうはずもない。
かくして俺は、第三王女の誕生会にめでたくご出席な運びとなった。
◆◆◆◆◆ 閑話 一か月後 ◆◆◆◆◆
凝った装飾の施された煌びやかな大型馬車。
それを引く二頭の甲冑を着た銀の聖獣。
平均的な馬の倍以上はあろう体躯。馬八頭は必要な大型馬車をたった二頭で軽々と引いている。実際銀の聖獣は一頭で、単純に力だけ比べるなら馬百頭でもまるで釣り合いが取れぬ程の能力を有しているのだが、見栄えを優先し二頭で引いている。
その脇と前後には魔法の戦具で武装した天使の騎兵。
騎馬ではなく騎獣。それもやはり甲冑を着た銀の聖獣である。
金糸銀糸があしらわれたキルヒギール家の紋章旗を持った儀仗兵。その数およそ二十騎。
それらを囲むように取り巻いているのは、甲冑を着た赤き聖獣だ。
その背には騎手の代わりに、風変りな巨槍を二本背負っている。
並の兵士では到底扱う事が出来ぬであろう巨大な槍。とある魔槍をベースにキルヒギール領ギンヌンガ・ガブ工廠で開発された新戦具。商人や旅人の守護神の名を冠する哲学的設計思想に基づいて生み出されたその魔道兵装の名は【メルクリウスの矛盾】。
射出前の槍は魔法障壁を発生させ、射出された槍はどこまでも敵を追尾する。
槍に刻まれた魔力拡散の呪韻は迎撃の魔弾を弾き、魔盾を破り、敵を正確に穿つ。その後は装備者の元へと戻る。
武装した聖獣は一頭で都市を壊滅させうる戦力に匹敵し、十頭もいれば魔術結界を備えた首都規模の大都市であっても防衛は不可能だ。よほどの大英雄でも擁していない限り滅亡は免れないだろう。
そんな戦力を、その一団は百頭以上連れていた。
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