ギンヌンガ・ガプ工廠 ④-3-3
「何を怯えているのだドワーフよ。お前たちは善良だ。勇者の敵ではない。むしろ勇者に協力したいとすら思っていた、そうだろう?」
「ファっ?! ヒはひっ! モモ、も、もちろん! もちろんだモン! 勇者様に敵対する輩などヒェッ、フォ、お、おらん! 誰一人モモォゥ、おらんモン! みなが、勇者様をぉ讃えるんだモン!」
「んー、そうかそうかそれは素晴らしい。それを聞いて安心した。この地には魔王に味方するドワーフはいない。うむ。ならば勇者を支援したいと願う善良なる賢きドワーフの者たちは、喜んで俺の手足となって働いてくれるということなのだろう」
「――はひ?」
「まさかこんなところに魔王関係者がいたなんて考えただけで吐き気がするなぁ。俺は最近この近くに住むことになったのだが、魔王の手先がうろついていたこの近辺はすごく気になるのだよ。だって汚いだろう? 汚いところは綺麗にしたくなるのが人情というものではないか。
だからこの地一帯を地獄の炎で包み込み浄化しなければいけないかと考えている。もちろん魔王の手先に関わった生物ごと滅菌消毒だ」
「はひ?! はひゅっ!?」
「まぁ、俺の庇護下にいる者には危険が及ばないよう配慮するつもりだが。いや危険から保護するだけでなく、生活支援だってやぶさかではない。俺のために働いてくれる者ならいつだってウェルカムだ」
「あひゃひゃひゃ! そんなぁ! 後生だモン! どうかお助けくだされ勇者さまぁ!」
「おぅそういえば、魔王の関係者を根こそぎブチ殺すために色々と物入りになるかもしれんのだが……今後のことを考えればどこかに戦具を発注しなければならないし、生活に必要な道具も必要になってくるなぁ。どこかにそういうのを作ってくれる者たちがいたら、とても助かるのだが――」
「はひゅっ! はへゅっ! わしらが! わしらが適任だモン! 殺さないでほしいモン! 勇者様のためにお役に立つのはワシらしかいないんだモン!」
地に頭をつけ頭の上で両手をこするようにし俺を拝むドワーフ。
なんか必死すぎてちょっと可哀想になってきた。いややってるの俺なんだけど。ほぼほぼ俺のせいなんだけど。
――ふむ。ここはこれで手を打つか。
魔王関係者の為に戦具を受注生産していた行為は見逃せない。本来なら一族郎党皆殺しにするのが勇者の務めだろう。
しかし俺はもう魔王を倒した。冒険には区切りがついたのだ。魔王の部下はともかく、それらに利用されたすべての関係者まで今更滅ぼし尽くすと言うのはどうなのだろう。
冒険が区切られた今、それを言ったら次の区切りまでずっとそれをやり続けなければならなくなる。だがこれからの俺に必要なのはどう楽しく生きるかという手段だ。豊かで面白い生活を動かしていく機能だ。
それを考えれば、ここは四角四面な対応をとらずファジーな感じでランすべきではないのか。ドワーフどもは処罰するのではなく、オーガナイザーたる俺を支えるプラットフォームを構成する一翼にアサインすることで彼らを勇者側だとオーソライズしコミットさせた方が俺の利となるはずだ。俺は残りの人生も魔王残党を狩ることに費やしたいのか、それとも世界を変えるようなチャンスが欲しいのか。Make a dent in the universe。ジョブズならそういうよ。
「そうか。それは思いがけない申し出だ。そうまで言ってくれるなら俺もお願いしないわけにはいくまい。是非、ご協力頂こう」
「わ。わかった! わかったモン! ワシらは勇者様の為に働く! 約束するんだモン!」
「うむ。では一族の方々にもよろしく伝えてほしい。数日後、またここに来るとしよう。皆の意思を統率し正式に話をまとめておいてほしい。細かい打ち合わせもしたいからな」
俺は鷹揚にうなずいてから、少し身をかがめてドワーフと視線を合わせビジネススマイルする。ドワーフも少しだけほっとしたのか、若干引きつってはいたが笑顔っぽい顔を作っていた。
「わ、わかったモン! こ、今後ともよろし――」
「あぁそうだ、俺の配下に貴殿を送らせよう。ギン、お前たちは犬らを連れてドワーフの御仁に危険がないよう護衛せよ。リキは念の為この洞窟内に熊の残党が残っていないか念入りに捜索だ。我々の新しい友人を危険に晒すわけにはいかぬからな。しっかり配慮するように」
『かしこまりました
『こころえやした
「――ッ?! ハヒッ! ハ、ハヒュェ、ハヒュェ、あ、ありがとうご、ざいま、ひゅモン!」
「それと、ヒミコは眷属を放ってこの洞窟を隅々まで調査してくれ。新しい友人に危険があってはいけない。害虫モンスターがいるようなら適宜駆除してくれると助かる」
「きゃははははは! わかったのだ! 洞窟探検おもしろそー! いっぱいがんばるのだ!」
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