ギンヌンガ・ガプ工廠 ④-3-2

ヒミコの言葉に目の前のドワーフが驚き、急に壁から離れ土下座した。


「ふぇへぇ~勇者様! わしらは魔王に脅されておっただけなのですじゃ! どうかご慈悲を! どうかぁ~!」


隠匿の加護が解ける。そして唐突に命乞いを開始するドワーフの姿がパーンイン。


垂れ流される謝罪の言葉が事態の理解を阻害する。


へ? 魔王?


「一体何の話だ? わかるように話してくれないか。さぁ顔を上げて」


初対面だし何があるかわからないので俺はとりあえず丁寧めな対応を心がける。土下座ドワーフに頭を上げてもらう。


「ワシの命は構わん! じゃがどうか同胞たちは、どうか! どうか命ばかりはお助けを!」


「まぁ待てドワーフよ。まずは話を聞かせてもらいたいな。今の言葉、お前たちは魔王に何をやらされていたのかな?」


ドワーフは震えている。こっちが引くくらい委縮している。


おかしいな。なんで震え上がっているの。この世の終わりみたいな顔で出迎えられたのは初めてなんだけど。俺勇者なのに。元だけど。


「ははぁ~っ。ワシらは魔王の使いに言われて魔物用戦具を作らされておったのだモン。アイツらは森にすんどったエルフ族を根こそぎ誘拐するためにワシらの作った戦具を利用したのだモン! だが待って欲しい、ワシらはやりとうなかった! 魔王に与するつもりなど無かったのだモン! 本当だモン! 仕方がなかったのだモン!」


――エルフだと?


エルフとドワーフは仲が悪い。「お前ら俺らのパチモンじゃん。ぶさいくじゃん。海賊版じゃん」「いや有能ですし。お前らより耐久性能たけーし。モノづくりで社会貢献もできっから」「あほか。可愛いは正義だから。存在が善だから」「あほはテメーだから。見た目だけの無能とか屁のツッパリにもならねーから」みたいなことを延々と言い合い罵り合い憎しみあってきたと精霊図書館の本に書いてあった。


――あー。そういうことか。


なんか一瞬でこの辺で起こってた事件の構造が見えてきたわ。このドワーフども、さては魔王側を利用してエルフを駆逐しやがったな?


俺はドワーフらが自分たちのために魔王の関係者に手を貸した浅はかさに少々イラついた。これはお灸を据えねばなるまいと思った。でも、エルフを駆除したこと自体についてはなんら責める気は起きなかった。だってエルフってば害人だから駆除されてもしょうがないし。アイツら生きる害悪だし。


ただ魔王なき今エルフを攫うって、用途はなんだろうなとは思う。もしも残党の中に魔王の遺志を受け継ぐ輩がいるんだとすればアレってことになるだろうけど。だとしたらそいつも拷問したあと肉片も残らないくらいミンチにしないといけない。


「……なるほど? 魔王のせいか。それで、そいつらを仕切ってたのは何という輩だ?」


「赤い毛色の馬鹿でかい化け物熊だモン」


大親分ボス! そいつぁ赤鍬だ! ヤロウ魔王の手先だったのか』


それってさっき倒した死んだフリ熊か。しまったな。何の情報も引き出さないまま殺してしまった。蘇生させて情報を……いや、もう肉片すら残ってないだろうな、蜘蛛に食されて。ぬかったぜ。


「なるほどそういうことか。

まぁ落ち着くがよいそこのドワーフよ。勇者はお前たちの災いとはならん安心せよ。

勇者の敵は魔王のみ。その関係者も一人の例外なく殺しはするし絶対に許しはしないしどこまでも追い詰めて生きていたことを後悔するような苛烈なる制裁を加えはするが、お前たちは魔王関係者ではない。そうだろう?」


「ひぇっ! はっ! ハッ! ハあわわわわわ! すまぬ! すまぬぅ!!」


ドワーフは恐怖しその場に倒れこんだ。


これほどまでに生物とはおびえるものかというくらいがたがた震えだし、豆タンクはその場で盛大に失禁した。


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