ギンヌンガ・ガプ工廠 ④-2-3
赤鍬と呼ばれた巨大な熊は目を見開く。
ギンもリキも戦闘姿勢を取るが咄嗟のことで動けない。いや、その場にいるすべての犬どもが動けずに硬直していた。恐らくは熊の咆哮の効果だ。
しかし。
「アアアア……ア?」
満を持しての必殺の一撃を発動させる前に、熊は息を詰まらせた。
〈―― 威気制圧・LV3 ――〉
直後熊の身に圧し掛かる強烈な謎の力。
俺をターゲットした、または俺にターゲットされた相手にペナルティを与える権能が、その場一面に効果を及ぼしたのだ。
「熊どもが使っていたのは擬死というスキルだ。不意打ちの成功度と命中率と威力が三倍になる厄介な技だが、俺相手ではレベル差がありすぎて不発に終わったな」
発動したのは実力差が開きすぎると即死効果が適用されるスキル。レベル3は範囲効果なので俺をターゲットしていない相手にも恐慌や金縛りなどのとばっちり(デバフ)が振り撒かれてしまうが、俺はあえてソレを使用した。他にも擬死のスキルを使っていた熊がいたからだ。
当然犬らやヒミコにもフレンドリィファイアするが、俺をターゲットしていないので死ぬことは無い。チラ見すると犬らは身をすくませ、ヒミコは内股になり身をくねらせていた。
俺に敵対した熊どもは、この時をもってきっちり絶命した。
「お前たちの獲物だというのに、とどめを刺してしまいすまなかったな」
『いえ、そのような、そ、その――』
『すまねえ
しどろもどろなギンの横で平伏し首を伸ばすリキ。
『親父! 待ってくれ! それなら俺も!』
『今回の仕切りは俺だ! てめぇの首は関係ねえ! それよりてめぇは俺の首を刎ねたら子分どもをきっちり締めておけ。おら、早くやれ! なにしてやがる!』
『そ、そんなわけにいくかよ親父! だったら俺も――』
「よい! ――双方控えよ」
俺の一喝でひれ伏す二頭。
――そういう古典的物語は精霊図書館で読んで食傷気味なんだよ。
恐怖による恐慌状態のバッドステータス付与中なのによくできるなぁってちょっと感心はするけど、どうせ自害してもお前復活するだろ。やめろよ俺のMP削るの。新手の嫌がらせか。
「勝手な自害は許さん。リキよ、覚えておけ。お前たちは今失敗をしたが、失敗は成長の糧である。罪ではない」
俺は責任問題で自害しようとする犬の責任者たちにぴしゃりと釘を刺す。
「自責の念に苛まれ成長の機会を逃すなど愚か者のすることだ。私の言葉を聞き、お前たちがそれでもなお罪の念を覚えるというのなら、それは今後私への忠義と働きを持って贖うがいい。理解せよ。失敗から学べ。そして私の役に立て。よいな?」
お前一頭が罪を背負うとか美談でもなんでもないから。切腹文化俺は反対です。という旨を伝えると。
『……ははっ! この命に変えましても!』
『……
二頭の平伏に合わせて周りに控えていた犬すべてが同じ姿勢をとる。
すごくでかい犬らが感涙にむせび泣きアオーンアオーンと遠吠えを繰り返している。
ぱっと見怖い。ちょっとしたホラー感あるこの一体感。犬らの結束が少しだけ固くなったような気がしないでもないけれど、俺の蚊帳の外感も半端ない。さっさと子蜘蛛に熊を食わせて岩男の所に行ってしまおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます