ディオネ ①-3-2

「亜人は人と交配しても孕みません。膜付きですが、ご要望とあらば調教後お渡しすることも可能でございます」



あー、やっぱり男への奴隷商品訴求ってそっち方面になってしまうのね。


汚らわしい下衆どもに我が純潔を散らされようとは。


しかし私もえり好みできる身分じゃない。


いつかはヤるだろうし、いつまでも新品未開封で飾っておいてもプレミアはつかない。


翼を失っているのだ。膜ぐらいどうってことない。



「ふむ。未通女か。伽に使うには少々手間がかかるな。しかし、それはそれで趣があるというものだ」


可愛い。


声変わりもしてない美少女のような見た目なのに物言いはまるで性欲のたぎった中年のそれ。はっきり言って背伸び感半端ない。私の中の新しい扉、開きそう。


店主。推して。プッシュプッシュ。私はこの人に貰われます。ノンバーバルコミュニケーション。



「金貨十枚を申し受けます」

「ほう。少々値が張るようだな」



おいやめろ。ふっかけるな。私の婚期が遅れr――いじわるしないでください。



「はい。完全な状態ですと百枚は下らない商品ですので」

「片目は失明、弱視、声帯は焼け背中の翼は消失、肺の病を患い来月は生きておらぬであろう個体がか?」



あ、そうなの?


もしかして、私の延命維持費って、結構かかってた?


満身創痍でごめんね?




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




買われて分かったのは、この少年が規格外という事。


扱う力は魔術ではなく、魔法。


無から有を引き出す力。


創造神の力をコンパクトにした感じでとてもやばい。



「何を驚く。お前の驚くべき事は、まだ始まってすらいないのだぞ」



これ以上どんな隠し玉があるというのですか? ちょっとこわいんですけど。


そう思っていたら。



「貴様は薄汚れた今の状態の方が好きかもしれんが、その姿だと連れ歩くのに目立つ」

「はい、ご主人様」

「まずはその服を脱いでもらおうか」



声が出ない。魔王に詠唱封じでやられた傷のせい。


返事は出来ないが声は聞こえるので言われた通り服を脱ぐ。


こんなつるぺたはにゃーんでごめんなさい。


全盛期だったらぼっきゅっぼんのナイスバディにだってなれるのに。


でもだめね。ないものねだりをしていては。


今ある体で満足しなければ。


そう思っていた矢先。



〈―― 肉体回復・C ――〉



身を包む優しい光。体の内部を熱くたぎらせる力の奔流。


え? え? なにこれ?


これって癒しの女神が使う権能では?


下界において神代の魔法とか呼ばれているやつですよね?


びっくりした。


規格外だとは思っていたけど、この能力は人の域を超えている。


使徒か? もしくは人のふりをしている神様ですか?




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「貴様の名は確か……ディオネだったか」


「はい。ご主人様」


「よし、ディオネ。ついてこい」



興奮する私を湯あみの施設らしき場所へ連れていくご主人様。



「ご主人様の、お名前を、お伺いしても……」



私は決めた。決めていた。


身も心もこの御方のものになる。


信仰という漠然とした教えにではなく、この目の前にいる神を体現した少年に全てを捧げる。


魔法の余韻だろうか。この時の私の興奮は絶頂を迎えていた。


彼の声を耳にするだけで喜びが沸き上がる身体になっていた。



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