ディオネ ①-3-1

私の名はディオネ。


オデッセウスの福音によりこの世界に生まれ落ちた唯一神の使徒。


かつて二対の純白の翼を持ち、地上を監督した天の御使い。


唯一神に背く十六闘神の引き起こした聖戦より生き残り、しかし傷ついた私は眠りについた。


魔王によって長き眠りから解き放たれ、半端な形で目を覚ました私は、かつて持っていたほとんどの権能を失っていた。


それでも魔王は私の魔眼を欲し、私を殺め魔道具を作らんとしていた。


だから私は逃げた。


邪な野望の為にこの身を使われるなど死んでも死にきれない。


我が権能で女神たちを誘惑しハーレムを作ろうなどとは。


魔王め。性欲が強すぎて気持ち悪い。


残り少ない力を使い私は何とか魔王から逃げおおせることに成功した。


だが。


奇跡の代価は大きかった。


身体の内外に沢山の傷。傷口から侵入した汚物やら風土病原菌やら呪いの類に至るまでの諸々をこの身に受け、私は堕天使へと変質してしまった。


我が身の回復は絶望的。我が運は潰えた。このまま野山で野垂れ死ぬのだろう。そう思った。


死に際になって思い出されるのは懐かしき昔の記憶。


女王ライフは楽しかったなー。


誰もがみんな唯一神の使徒たる私のことを敬い、跪き、平伏する。


わがままは全部叶った。


贅という贅を堪能した。


今思えばやりすぎたかもしれない。


そば仕えの顔とかいつも引きつっていた気がする、今思えば。


やりたい放題やって、突然降りかかった災害みたいな事件でそれが終わって。


全部自業自得だったのかな。


眠りから復活したらまたやりたい放題やろうと思っていたらこれだもの。


魔王許すまじ。全盛期ならひゃっぺん殺してた。


後から知ったことだが、私を逃がすために眷属が魔王の手にかかっていたらしい。


それを知った時の怒りは半端なかった。


眷属を魔道具の実験の贄にするとは。


あいつらをパシらせていいのは私だけだ。殴ってもいいのは私だけだ。


どれだけハーレムを作りたいのだあの性欲魔。


おぞましい。出来る事なら今すぐにでもその汚らしいナニを引っこ抜いてやりたい。それで引っこ抜いたナニをすり鉢かなんかでゴリゴリとペーストになるまで丁寧に磨り潰し裏ごしして魔魚の餌にしてやりたい。


そのくらい頭にきているのだが、しかし。


悔しいが、今の私ではアレを倒せない。


神よ。


私の願いを叶えたまえ。


魔王に裁きの鉄槌を。


願わくば死を。


叶えてくれるならこの命を差し出しても構わない。


……いや。そんな弱気では駄目だな。


ここは生き残って復讐をせねば。


それまでは死ぬわけにはいかない。


私は唯一神の使徒。天使の長と呼ばれた女。天の支配者代行として挫けるわけにはいかない。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




ご主人様に出会った時、私はビンビン来た。


見た目は子供。黒髪黒瞳。色白でやや掘りの深い顔立ち。肌艶が良く背丈もそこそこある。声の感じから第二次性徴少し前くらいだろうか。


そして何より私の興味を引いたのは、なんとなく感じる異質な力の気配。きっとただの子供ではない。いやこの場に来ているだけでただの子供のはずは無く。


私は無い尻尾を全力で振る思いで奴隷商にノンバーバルコミュニケーション。私この人にします、推して。

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