ギンヌンガ・ガプ工廠 ④-1-2

先送りしていた犬問題。


これだけでは何の問題かまるでわからないですね。問題点にフォーカスし具体的に言いましょう。端的に。


勇者が不死族を大量に抱え込んだ問題、と。


勇者が魔物を従えているなんて。


マッチポンプでしょうか。


はっはっは。そんなコントを信じてくれる優しい世界であればわたくしもどれだけ心穏やかでいられたことか。


残念ながらこの問題、バレればこの先待っているのはまさにあれです。一部の貴族どもが望んでいる糞展開です。


勇者魔王化説。


勇者闇落ち論。


などなど、誰得な面倒くさいヤツです。


不可抗力? なにそれおいしいの? と、涎垂らしながらニヤつく貴族どものアホずらが今から目に浮かびますね。


くそったれ。


そんな未来は絶対回避だ。


じゃあどうすればいいか。


無かったことにする以外方法ある?


そうだよ。なかったことにするんだよ。


そんな未来を回避するためには犬らを無かったことにするしかない。


だからまずは関係者の把握。俺は犬どもにお知り合いを連れてくるよう命令した。一網打尽にして消去するために。


そしたらさ。


「随分と躯が多いようだが?」


『はっ! 生死問わずというお達しでしたので! どうぞ無念にも散った同胞らにも主様のお力を授けていただきたく!』


「え……あ、うむ」


糞犬どもったら、仲間の死体を集めてきたんだ。


うん。


意味が分からないよね。


俺はさ。俺の記憶が正しければこういったんだよ。「お前たちのことを知るものをすべてこの場に集めよ。逆らうものは力づくで構わん、生死不問だ」ってね。


そう言われてなんで死体を持ってくるっていう発想になるのかな。


生死不問ってそういう意味じゃないよね文脈的にさ。


ちょっと頭おかしいと思う。


え、俺が悪いの?


自分たちのことを知る死んだ仲間を力づくで集めましたとかそういう話になってんの?


いやいやだとしてもだよ。


君たちには戦いを頑張って力尽きた仲間らにお疲れ様の気持ちはないのか。


彼らの安息を妨げることに抵抗を感じないのか。


まぁ、この結果を見る限り、無かったということなんだろうなぁ。


それどころか期待に目を輝かしているわんこ一同が俺の前にはいるよ。


早く仲間を増やしてよって圧が凄いんだもの。


あへ。


これ裏切ったらどうなるの。


死者蘇生に忌避感覚える俺がおかしいの? 厳密にいうと蘇生ではないんだけども。



〈―― 血の祭壇アルキメ・デス ――〉



スキルによって空が血に染まる。


しばらくすると血を吸いだされた死体が蠢き始め、その肉体が徐々に膨らんでいき再構成されていく。


はい。完全にダークサイドの所業です。ありがとうございました。



『おおおおおお!』『流石は主様だぁっ!!』『大丈夫か! しっかりしろ!』『あなた! あなた!』『やはり御方は神であった!』『大いなる御方に忠誠をウミハシニマスカ!』『いと高き御方に忠誠をヤマハシニマスカ!』『おかーちゃーん!』『おおお! 息子よ!』『我らが元にとうとう伝説の――』



思念伝播の大洪水。情報量多すぎて吐きそうになった。


やめてよ人情劇するの。これから俺はお前らを始末しなきゃいけないのに。


「さて、貴様ら。蘇ったからには何をすべきか理解していると思うが――」


俺は変な情が湧かぬうちに早速計画を進めることとする。そう、他力本願でお犬さん殲滅計画だ。


「よもやこの場に戦えないものなどおるまいな」


『もちろんです主様!』

『俺らぁ今すぐにだって戦えやさぁ!』


返ってくるのはすさまじい音量の遠吠えと思念。


やる気は十分のようだ。


「結構。我が命は一つ。貴様らを破りし熊どもに今までの借りを返してこい。

俺が貴様らの仇敵である熊どもを誅殺してやってもいいが、それでは貴様らも立つ瀬があるまい。故に貴様らはこれから、我が力で蘇った同胞らとともに、奴らと再戦し見事それらを打ち破ってくるのだ! 貴様らだけでな!」


まずは煽りまくって犬どもを盛り上げて結束させる。失った仲間を蘇らせたことで俺に対する犬どもの忠誠心は最高潮。煽り効果は抜群だ。


興奮が頂点まで高まっている犬どもをこのまま熊どもの巣窟に無策でけしかけ、全力突撃の末玉砕させるこの作戦。首尾は上々である。


「行け! 殴殺だ! すべての敵を粉砕し! 蹂躙せよ!」


『ぐぉおおヴォぁお!』『流石は主様だぁっ!!』『大丈夫だ! しっかりしろ!』『おまえ! おまえ!』『至高の御方に勝利をカゼハドウデスカ!』『至高の御方に栄光をソラモソウデスカ!』『おとーちゃーん!』『おおお! 娘よ!』『我らにとうとう雪辱の――』『ふしゃあああああ!』『げろげろおお!』


返ってくるのは先ほどのそれを越えるさらにすさまじい音量の遠吠えと思念。


ボルテージ最高潮。鉄砲玉が怒涛の勢いで動き出した。


――いってらっしゃーい。さようならー。


犬どもが見えなくなるまで偉そうな態度をキープしつつ、俺は全員が確かに出発したことを探知魔法でも確認する。


よし。


あとは熊のところにカチコミにいった犬どもの全滅を待つだけだ。ざっと百頭以上いたけどまぁ問題はないだろう。二十頭もいて熊一匹に殴殺されていたのだからこんなの誤差だよ誤差。熊どもが何体いるのかは知らないがせいぜい返り討ちに合ってくれわんこどもよ。安心して全滅するがいい。


――大丈夫。生き残った熊どもは俺が漏れなくあの世に送っておいてあげるよ。


そんで全部残らず俺の実績として王都に死体を飛ばしてやる。俺ってば魔物千体狩って来いって王様に命令されているからにして。


犬は熊に復讐出来てハッピー。


俺は犬を秘密裏に処分出来た上魔物狩りの実績が挙げられて大ハッピー。


まさにウィンウィンな関係だね。最高じゃないですかやだー。

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