マルギット ③-3-1
私の名はマルギット。
天使長の派閥であるリーナ氏族の戦士長兼世界樹の番人。
通り名は死を告げる蒼き天使とか、虐殺天使とか、そんな感じ。
でも本当は天使なんかじゃない。
神代の時代を生き抜いてきたお姉様は神に呼ば(召喚さ)れた天使だけれど、私たちは模造品。
私たちの多くは、世界樹から生まれた半精霊半植物。その名はアルラウネ。
背中の翼は鳥たちのように羽ばたくためにあるのではなく、魔法で起こした風に乗る為のもの。戦いで荒廃した各地の緑を復活させるための、移動手段としてつけられただけの
だからコンパクトに畳める。畳もうと思えば。
でも畳まない。だって純白の翼は見た目がよく、出しっぱにしておいた方が人種族らが勝手に勘違いして私たちを神の代行者だと崇めるから。
人種族は常に私たちを敬うべきだ。
なぜなら私たちは人間なんかより有能だから。
私たちは緑の扱いに長けている。荒れ地を緑に変える私たちは、言ってみれば世界の救命士だ。世界を汚すだけの人間とは価値が違う。私たちは世界にとって有益な存在であり、人種族らとは一線を画する。
そもそも人種族らは碌な事をしない。
醜く争い、いがみ合い血を流しながら、野を焼き、毒を撒き、鉄くずなどのごみを増やす。
あれらは生きている価値がない。世界を汚してばかりだ。
人種族らが居なくても世界は回るが、私たちがいなくなれば世界は色を失う。
だがそんな蔑んでもいい虫ケラでも、私たちは手を差し伸べてきた。
神の名の元に沢山の金品を捧げさせ、贅沢するためのメッシー君として顎で使ってあげた。道具として有効活用されることを喜べゴミども。
そんな素晴らしき共存共栄。地べたを這いつくばる人間というダニどももまんざらではない様子だった。
そんな私たちだが、順風満帆の無双チートだったわけじゃない。
天敵がいた。
世界樹の葉を食いに来る蟲の王。
私たちを捕まえて魔道具の素材とする上位魔族。
そして最強最悪最大の天敵、魔王。
魔王は美の結晶たる私たち天使を玩具奴隷にした。
捕まえた同胞にあんなことやこんなことや口に出すのもはばかられる糞エロイことをした。
そして飽きたら裸身のはく製にし、フィギュアコレクションとして飾った。
セクハラ親父のレベルではない。変態狂人マジで逝ってよし。
でも強い。魔王ガチで強い。
お姉様のような神々のサバゲ―を生き抜いてきたモノホン天使と違って、私たち模造天使アルラウネは戦闘能力がオミットされている。だから捕まったら即終了。さよならコンサートを開く間すらない。
お姉様を頼って他の氏族が動いていたみたいだけど、お姉様はお姉様で魔王からガチ逃げしていたから、みんなお姉様のチャフみたくなって捕まってた。使い捨てのパッシヴデコイさながらの最期だった。
他氏族の同族らは漏れなく魔王に捕まり悲惨な最期を遂げ、お姉様のホームである神樹庭園にいた私たちだけが難を逃れた。
こんな状況で世界緑化の使命とか無理。
むりむりむりむり。
私たちは世界樹の結界を頼りに引きこもった。おそと怖いとみんなで震えた。
助けに行けずごめんなさいお姉様。ごめんなさい。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それから時は流れ。
誰もお姉様の安否を気遣わない日々。
わがまま放題やりたい放題なお姉様がいなくなったことで、みんな心のどこかに「実は今の状態がベストなんじゃない?」って気持ちを持ったのかもしれない。
私たちは規律を失う代わりに心の余裕を得た。
私たちは自由を謳歌するうちに、日に日に自堕落となっていった。
そうなったらもうアレだ。アレな感じになってしまった私たちは神話に登場する伝説の生活様式ニートライフを送り始めた。
そうなったらもう誰も命がけでお姉さまを探しに行こうなんて言いださない。
世界樹結界内の引きこもり生活は暇そのものだったけど安定の食っちゃ寝ライフ。夢の中で楽しかった日々を何度も反芻する末期の老人のような時間だけど、それでも恐怖や困難に対峙することに比べれば全然マシだ。
みんなの気持ちはわかる。私も自堕落に身をゆだねる快楽にはあらがえない。恐怖は避けたいし安心にしがみついていたい。
けれど私は、夢の中でお姉様を思い出す。
私にとってお姉さまは、やはりかけがえのない人だったと、何度も思い知らされた。
私は忘れたことなんてない。巫女見習い時代にお姉様に呼ばれて過ごした寝室での思い出を。
もう一度お会いしたい。
お姉様と一緒に眠りたい。
そして願わくばまたぺろぺろさせていただきたい。
お姉様の甘くて濃密な蜜をチュウチュウしたい。
花畑を舞うモンシロチョウの如く。
マルギットはまた、お姉様とくんずほぐれつれっつらだんしんぐしたいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます