マルギット③-2-3
こういう弱い奴にしか通用しない追加効果のあるスキルってほんと困る。何が困るって勇者が不死族を生み出したうえそれを眷属にした事実よ。
――これ、隠し通さんと詰むぞ……。
不可抗力ですって言っても誰も聞く耳なんか持つまい。新しい魔王になった証拠ですとか言われたら目から火の出る王手飛車だ。
ホントいい加減にしろ糞ジュラ。あの野郎ワザとか? こうなることを見越してワザと俺にスキルを奪わせたのか? 実はああ見えてとんでもない策士だったのか? いやそんなに頭よさそうには見えなかったっていうか間違いなくアホの部類だと思うのだけれど今にして思えばその可能性も無きにしも非ずだったのかという気がしないでもない気がするわけだがマジでどうしよう。
――とりあえず証拠隠滅を徹底する必要があるな。まとめて始末するか。
「お前たちに最初の命令をくだす。お前たちのことを知るものをすべてこの場に集めよ。逆らうものは力づくで構わん、生死不問だ」
『ははーっ! 御意に御座います!』
◆◆◆◆◆◇◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇◆◆◆◆◆◆◆◆◇◆◆◆◆
俺は犬たちに命令を与えて追っ払うと、マルギットを連れて神樹庭園に戻った。
犬の件は、今日はもう疲れたので考えたくない。
きっと明日の俺が解決してくれるだろう。
本日の業務は終了。
急造要塞を神樹庭園内に設置しそこで休息をとることに。
まずは夕食。
かなり遅くなってしまったので軽めに。
俺とディオネだけ中で休息しようと思ったのだが、護衛がどうのこうのと理由をつけてマルギットがくっついてきた。
ディオネがマルギットを厳しく罰しようとしたので宥めて、食事への同席を許す。一人増えたところでどうという事は無いしな。
と思ったのだけど。
「マルギット。フォークとナイフは一番外側のものをお使いなさい」
「はい、お姉さま」
「マルギット。パンは直接かぶりついたりせず、一口サイズにちぎって食べるように。バターやオリーブオイルをつけるのも、一度ちぎってからにしてください」
「はい、お姉さま」
「マルギット。フォークは左手、ナイフは右手に持つのです。それぞれ人差し指を添えて持ちます。ひじをはらずに――」
「はい、お姉さま」
「マルギット。スープは手前から奥にスプーンを動かしてすくうのがマナーです。口に入れる時は音をたてないように。吸うのではなく流し込むようにいただきましょう。量が少なくなってきたら皿を左手で右奥に傾けて――」
「はい、お姉さま」
「マルギット。食べ終わったらこのようにフォークとナイフをそろえるのです。ナイフの刃を内側に、フォークは背を下に――」
「はい、お姉さま」
「マルギット――」
「はい、お姉さま――」
マナー講習会になってしまいました。
マルギットに今までの事を色々聞こうと思っていたけど、そういう空気ではなかった。
出てくる料理の味に大興奮しつつもド緊張の中一生懸命ご飯を食べるマルギットは、見ていて微笑ましかった。
子供のように目まぐるしく移り変わる表情は見ていて楽しい。
ディオネは疲れていたみたいだけど悪くない一時だった。
食事後は入浴。
ディオネを洗ってからマルギットを洗う。
「え? え? あ? え? ええぇ!? あっ! あッん! あぁッ。ん、ん……」
マルギットは洗ってもらった経験がないのか、ちょっとうるさかった。
お風呂上がりには飲み物とアイスクリームを与えて就寝。
俺は寝るつもりだったのだが、熱いまなざしで見てくるディオネと、ディオネにくっついて桃色吐息のマルギットがあれな感じで騒がしかったので、寝かしつける作業。
マルギット渓谷開通作業に時間がかかったせいもあり、また空が白み始めてからの就寝となった。
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