マルギット③-2-2
次に神樹庭園と魔の森を繋げるため回廊を抜けて
転移スキルで魔の森に出ると俺の索敵網に沢山の魔物が引っ掛かった。
「ん?」
「陛下! お下がりください!」
マルギットが俺の前に出て警戒を促す。
「陛下? ……それはもしかすると、俺の事か?」
「はっ! は? あ、いえ、陛下は女王たるディオネお姉様の夫でありますので、敬称は陛下が適当であるかと」
ん?
ディオネは奴隷だけど?
妻にした覚えはないけど?
っていうかお前、何があった?
どんな打算で手のひらくるくるしてるの気持ち悪い。
「待て待て。陛下というのは王の敬称だろう。烏女族の国は既に滅びたとディオネに聞いたぞ。王族でもないのにその敬称は適当ではあるまい」
「はぁ。しかし……」
「過去の栄光が忘れがたいという気持ちはわかるが、新しきを知り受け入れることも器量の内ではないかなマルギットよ」
だから陛下はよせ。と、暗にいう。
「は! では、何とお呼びすれば、よいのでしょうか」
「なんと……? 何を迷うことがある。ディオネと同じでよい」
「――っ!?」
「どうした?」
「では私にも……いえ、かしこまりましたご主人様!」
そう言って頭を下げるマルギット。何故だかテンションが上がっているように見える。
すごく引っかかるしちょっと問い詰めたかったけど、でも現場はそれができないくらい刻々と事態が急展開。
索敵網で探知していた魔物様ご一行がご到着。
何十頭もの獣らの襲来。俺の前――少し離れた位置に横並びに整列する犬型モンスター。
看破の権能で見てみると、犬たちの種族名はケルベロス。
冥界の番犬ケルベロスか。頭が三つある化け物という伝承が有名な。だけど目の前にいるのはただのデカイ犬なんだが。頭が一つしかない。
しかも特記事項欄に〈眷属〉ってあるんだけどどういうことなの。このお犬様たち、黙ってみている俺の前で一頭ずつ、順番に、仰向けになって腹を見せはぁはぁし始めている不思議な光景と何か関係があるのかな。たぶん犬にとっての服従の姿勢なのだろうけど、その大きさでその頭数でやられるとすごくシュール。滑稽を通り越して狂気を感じます。
『此度は我々に力を与えていただき有り難うございます
「…………」
あー。
今のでなんとなくわかっちゃったかもしれない。ピンときちゃったものがある。
だって俺ってば、吸血鬼から奪ったスキルで知らぬとはいえ魔術的に吸血かましちゃったわけじゃん。吸血鬼に噛まれた者がどうなるかなんておとぎ話の題材にされるくらい有名な末路じゃないですか。マジかよなんて日だ。
「貴様らは、我が眷属になることを受け入れた者どもだな?」
腹見せわんこずの中で一頭だけわんわん吠える犬に向かい俺は言葉を投げかけた。
『さようでございます
聞こえてくる音はわんわん。けれども俺にはその意思が伝わってくる。ゴーレムやらスケアクロウやらを操作する時に感じるやまびこを体に受けるような感じ。思念伝播という奴だ。
わんわん吠える犬からビンビン伝わってくる忠誠心。真祖吸血鬼に血を吸われたら吸血鬼になるというおとぎ話のタネは
俺が食らった時は魔力を奪われただけだったのでわからなかった。たぶん何らかの条件が満たされなかったために俺に十分な効果が出なかったのだろうけれど、あのジュラってやつは相当ヤバイ奴だったのかもしれない。権能奪取は能力を奪えても能力の詳細までは理解できないって制約があるのだけど、情報なんか奪えなくたって実際に食らえば馬鹿でもどんなスキルかわかるだろ制約意味無ぇ(笑)って今まで思ってたんだけど、どうやら(笑)は俺だった模様。
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