天空の城 ②-3-1
「ご主人様。犬たちを弔うのですか?」
「試す機会のなかったスキルを使ってみようと思ってな。死骸を生贄にゲートを開く。魔力の有効利用だ」
え? という顔をするディオネ。
「何か問題があるか?」
「あ、いいえ、その……どのようにされるのかと思っただけです」
「ふふ、まぁみていろ」
〈――
俺が過去にとある吸血鬼から奪ったスキルを発動させると、犬たちの体に開いた傷口から血が噴き出し空へと舞いあがった。
「ッ!?」
絶句するディオネ。彼女の見上げる先――上空三メートルあたりに――には、空に撒かれた血を吸引する円柱型の煤けた闇があった。
「(え? ……えぇ?!)」
煤けた闇はみるみるうちに血を集め、円柱の中にプルプルと震える血の玉を作る。血の霧が円柱から滲む闇と溶け合うその光景は地味に俺の想像していたものよりかなり禍々しい、ビジュアルが。なんというか、それはまさに『魂を魔力に変換する悪魔の装置』そのもの――間違っても勇者が使うスキルじゃない。
「ふむ。なかなか良いな」
俺、ポーカーフェイス。意図してではなく、動揺のあまり表情筋が死んだ結果である。
――血があると死体が傷みやすくなるって聞いたから……。
〈――
でもなんかもしかしたら、俺の知らない効果とか呪いとかありそうな気がしてならないあのビジュアル。知ってたら使わなかったよスキルリリースしてた。でも仕方ないじゃないかそもそもアレ使われた時は俺も戦闘中だったしスキルの観察なんてしている余裕はなかったんだ。こんな禍々しいスキルだなんて知らなかった。俺は悪くない。
ふと周囲を伺えば、血の祭壇を凝視するディオネ。
その顔はサプライズに驚く田舎の村娘のよう。
「さすがご主人様です。戦士の魂をただ輪廻に還すでなくこのように有効活用なされるとは……まるでかの大神のようであらせられます」
血の祭壇から視線を地に落とし、その後思案顔でぶつぶつ呟いたかと思うと、そのまま一人頷くディオネ。何に納得したのかは知らないが、問いただすのがなんとなく怖くて俺はスルー安定フラグ回避。
そのまま何もなかった風を装い頭を切り替え俺は言う。
「ディオネよ。打合せ通りやるぞ。さぁイメージするがいい。お前の住んでいた森の記憶を」
代行魔術。
対象者の魔術記憶領域に干渉し、魔術展開回路を解析することで術式を代行する俺のオリジナルスキルである。
血の祭壇に蓄えられた瘴気から魔力の源である聖粒輝を熾して、ディオネの記憶を元に術式を編んでいく。そうして俺は世界に一つしかない俺専用の転移門〈―― 多次元門 ――〉を作り上げた。
「こ、これは〈
呻くようにしてディオネが賞賛の言葉を吐き出す。
いやいやそんなにすごいもんじゃないのだけど。でも褒められてうれしくないことはない。
ちょっと持ち上げ過ぎじゃない? とは思うけれども。お前はほんとにいい奴隷だよ。
「いくぞ。目的地に着くまではMPが減り続ける。さっさと通り抜けてしまおう」
俺はディオネの賛辞に気をよくしつつ門を開けて中に入った。
俺から離れまいと駆けてくるディオネの気配を感じながら、「今の俺、主人としてちょっとカッコよかったんじゃない?」なんて思ったくらいにして。
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