天空の城 ②-2-2
この子指令書を読んだのかな。
奴隷なのに文字が読めるのね。お兄さんちょっと驚いたよ。奴隷だから文字なんて読めないって決めつけてた。さすが元女王。見識高し君。
「騎士団など不要。野山を這いずる有象無象など鎧袖一触」
「さすがご主人様です」
まぁ嘘は言ってない。問題はエンカウントするかどうかなだけで。
見張りに張り付かれて逃げ回られたら逆にこっちが野山を這いずることになるだろうってだけの話で。
「ですが、御身自らですべてをなさるのはお立場上宜しくないのではないかと愚考いたします」
「ふむ。そう発言するからには、お前には何か考えがあるのだろうな?」
「僭越ながら。もしお許しいただけるなら、私にお暇をいただけないでしょうか」
「ほう。我が元から離れたいと申すか」
「私の身も心も――何もかもすべて、昨日をもってご主人様のものとなりました。私の身が少しの時間ご主人様の元を離れようとも私の心はご主人様と
真っ直ぐ見つめてくるディオネ。
ちょっと間をおいて、顔が赤くなるディオネ。
え、何その反応。
ちょっと今、腰がくねっとしたの、気になる。
言っちゃった、てへ、カッコはーと。みたいな乙女チックな反応されても困るよ。こっちはお前が何をしたいか全然見当がつかない状態であるからにして。
「ふむ。私は貴様の忠誠を信じぬではない。しかし我が元を離れて何をしたいというのだ。お前は私が初めて持つ私個人の部下だ。部下の仕事に目を配るのは上司の勤めである。私にできることがあるなら手伝うこともやぶさかではない。正直に申してみよ」
「はっ、ありがとうございます! しかしご主人様の手を煩わせるなど恐れ多いことでございます。私はもしお許しいただけるのであれば、一族の生き残りを指揮してご主人様の露払いをさせていただきたいと考えております」
深々と礼をするディオネ。
なんでか感極まってて表情が崩れている。
何がその琴線に触れたのかわからなくてちょっとこわい。
でも彼女の提案は、悪くない。
俺はそういうのを求めていた。
勝手に人を集めてくれる才能を欲していた。
もしかしてコイツ、掃除婦として使い倒すにはもったいない逸材なのか?
彼女のマネージャーとしての資質は俺のボッチを解消する糸口となるかもしれない。そんな予感がする。
「そうか。お前の忠義、うれしく思う」
キタコレ。
これはキタ気がする。
ガチャで出てきたアンコモンっぽいの、実はスーパーレアだったとわかった時のような感動を俺は噛みしめていた。
これいけんじゃね? 大逆転じゃね? ボッチ離脱の序章じゃないですかねこれ。
心の中に湧き上がってくる興奮を抑え込みながら俺は努めて平静を装う。
声が上ずらないよう気合を入れて涼しい顔をする。
これは手伝うしかない。
全力でサポートするしかない。
乗るしかないこのビッグウェーブ。
「だがやみくもに探すのでは手間も時間もかかるだろう。お前の時間は私の時間だ、浪費させるわけにはいかぬ。生き残りがどこにいるかの目途は付いているのか?」
「はい。神樹庭園という次元の狭間にある閉じた場所です。ご主人様に回復していただいた今の私ならば、ここから一番近い神樹庭園への道を開く座標を解析できるかと思います」
「ならば私も手伝おう。移動には私がいた方がよい。座標指定が必要な移動ということは転移系術式の範疇であろう? 私にはその系統の最高位たる十層級術式が使える」
「そんな、ご主人様にご足労頂くなど――」
「ディオネよ、何を遠慮することがある。お前が自身を私のものだというのなら、私は主としてお前の忠義に報いよう。私がお前を大事にするのは当然のことではないか」
「ご主人様……」
俺の何気ない一言を聞き、急にディオネの目から涙があふれる。
何が琴線に触れたのか知らないが号泣スタート。
「(え?)」
俺は今までの発言の中のどこに奴隷が歓喜するポイントがあったのかわからず困惑する。ついでにこういう場合、奴隷の主人はどうするのが正解なのか。
――とりま、抱きしめとけばおけ?
彼女をそのまま引き寄せると俺の股間とディオネのお顔がご対面してしまうので、しゃがんで目線を合わせ、手持無沙汰な両手をディオネの後ろに回し抱っこしてふんわり抱きしめポーズ。
子供をよしよししてるかのような俺と、その胸に顔を押し当て泣くディオネ。
まぁご主人様としてこれくらいの奴隷ケアは苦ではないが。けど、なんかさっきより大きく泣いてるような? 泣き止むどころかさらに泣かしてしまっている感じになっている。
――なんで? どして?
まさか虐待しなかったから残念で泣いているのか? そっちだったのか? だとしたら意地悪して突っぱねるのが正解だったのか?
わからない。だけれどここで突っぱねるとボッチ地獄が継続してしまうフラグが立ちそうな予感がビンビンする。それだけは駄目だ。そんな未来は受け入れられない。それは俺にとって計り知れない損失となる。奴隷の気分如きに払える博打代ではない。悪いけどそのまま泣いていて欲しい。
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