ディオネ ①-1-3
「貴様は薄汚れた今の状態の方が好きかもしれんが、私にとっては少々都合が悪い。悪いが少し汚れを落とすぞ」
「(はい、ご主人様)」
しわがれた声。
無理やり声を紡いだという音。
ちょっと壊れ過ぎじゃない?
いや、使いつぶしても大丈夫な奴って頼んだのは俺なんだけども会話できないのは不便すぎる。奴隷を甘やかすなとは言われたけど、それでもコミュニケーションに支障をきたす要素だけは無くしておきたい。
「まずはその服を脱いでもらおうか」
俺に言われて烏女は服を脱ごうとする。
でもプルプルしててうまく脱げない。
体に力が入らないようだ。
めっさ時間かかりそうなので代わりに脱がせる。
囚人の服のようなみすぼらしいワンピースを脱がせるといきなりマッパでちょっと驚いた。下着は元々着せられていなかったらしい。
――むぅ。女もののパンツなんて装備しないから持ってないぞ。
問題発生。でもこの問題は考えたところで解決できない。まぁなくても死にはしない。しばらくは俺のトランクスでも履かせておこう。それよりもその前に体洗ってやらないと。
――それにしてもこいつについてるこの汚れは何なんだ? 白い泥? 垢の塊?
まさかアレじゃないよな。
だって処女なんだろ?
あ、でもぶっかけられていた可能性はあるのか?
ないのか?
どっちなの?
でも確かめるために手に取ってじっくり観察とか絶対に嫌だ。それをするくらいなら可能性のままにしておいたほうがましである。それはそれでテンションが下がるが。
――はぁああぁもう。こいつ手足をうまく動かせないのか。マジか。んもう、あ、もう! ちょっとこの奴隷、汚過ぎじゃないですかやだー!
体を動かせない人間の体を動かすのは意外と面倒くさいと知った俺。正体不明の汚れのせいで早々にギブアップ。せめて自分の足で立つくらいはしてほしい。白いの俺につくから。
「やむを得ん、少々手を入れるか」
烏女の体を洗うのが想像以上に面倒だったので、俺は奴隷が自分の体くらい自分で洗えるようにするため回復魔法を使用する事とした。
〈―― 肉体回復・C ――〉
Fは小さな傷を。
Dは火傷や大きな傷を。
Cは骨折やたいていの外傷を回復させる。
恐らくBを使えば背中の翼も回復するだろう。
しかしそうなると掃除仕事の邪魔になりそうなのでやめた。体の倍もある翼を常時背負った状態で清掃業務をやるのは大変だよね、って思ってのC。
そしたら。
「あぁ、あぁ! すごい! あぁ! からだが! ――」
歓喜の声を上げる少女。
うんうん初めて回復魔法を体験した人はみんなそんな感じになるんだよね。なんて思いながら見ていたら――
「見えます! ご主人様のお顔が! あぁ! すごい、こんなことって……」
烏女の目が一瞬銀色に光った。
あらら。
魔眼まで回復させてしまったっぽい。
おめめで悪さしちゃう困った能力なので損傷させたままにしておこうと思ったのにどうやら眼球は完全に破壊されてはいなかったようだ。
「…………」
あっちゃー。やっちまったなぁ。なんて後悔している俺をよそに、烏女ったら感極まって泣きだしてしまった。
その感情はお礼を言い忘れるくらいの高ぶりっぷりだったようで、なんか頬まで上気させている。
――しまったな。体の不自由を解きすぎてしまったか。
奴隷商に奴隷の事を思うなら奴隷をよく扱うなと言われたのにいきなりやらかしてしまった。俺はこの少女から虐げられる喜びをひとつ奪ってしまったのだ。
――はぁ、マジへこむ。
俺は主人失格である。困ったなぁと思いながらも、しかしだからといって今更この手で少女の目を潰すのは憚られる。「ごめん今の無し、もっかい眼を潰すね?」とは言えない。そんな事俺には出来ない。俺ってば実は根がヘタレであるからにして。
――これは俺の失態。……だが、しかたがない。この罪は甘んじて背負おう。
俺は胸中で少女に快楽を奪ってしまった罪を詫びた。
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