ディオネ ①-1-1
キルヒギール領へ送る物資を積んだ一団が出発するのは明日。
それらが領地に到着するのには一か月ほどかかるという。
一か月間、あの奴隷を連れて馬車で旅するのか。
初めましてな人といきなり密室空間での旅。
どうなんだろう。
厳しいな。
息が詰まるよ間違いなく。
そういうのは気心が知れるくらい仲良くなってからじゃないと俺にはきつい。以前似たようなことがあって、その時「勇者君はコミュ障なんだね(要約)」って言われたことがあるんだけどそのシーンを思い出してしまう。これって巷ではトラウマっていうらしい。
「…………」
どれいとわたし。
俺は考える。
「…………そもそもだよ」
そして気が付いた。何故俺は、奴隷とお見合いしながら旅をしなければならないという前提でいるのかと。
俺は仕事をしてもらうために奴隷を買ったのだ。ならばさっさと仕事をさせるべきだ。一緒に馬車に乗ってただ時間を過ごすなどやってられるか。のんびり旅がしたいってさっきまで思ってたけど今じゃないわ。その前にやるべきことがあったわ。
まずは奴隷に仕事をさせる。そしてそれを俺がチェックする。そうやってわずかずつ接点を設ける。そうすることで日々発生するだろうちょっとちょっとの触れ合いから、二人は少しずつ仲良くなっていく。それが理想だ。初めから二人っきり密室とか難易度おかしいクソゲーか。スペランカーかっての。
――まずは仲良くなる準備からだ。
そう思った俺は次の瞬間、空へと飛び出していた。
キルヒギール領へ向けて飛翔。滑空。
時速三百㎞で半日かけて現地へ飛んだ。転移ポイントを作ってくるために。
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もらった領地はへき地だった。
もうすんごい端っこのほう。
ここマジでこの国の領土なの? って感じのところ。
険しい山々に囲まれた樹海。
魔王のいた場所の鑑映しみたいな雰囲気。魔物とかひしめき合ってそう。怪しさ満載。満天の邪悪。
これが俺の治める領地かぁ。
ははは。笑っちゃうね。お前は一生魔物退治してなさいってことか。でもまぁちょくちょく呼び出されて貴族ごっこさせられるよりはマシかもしれない。いや、万倍マシだ。遠いからあんまり王都には顔出せないんだよごめんねーって言えるもんな。
国境沿いにあるぽつんと一軒家。周りに何もないのですごく目立つ。あの屋敷が俺に下賜された伯爵邸だ。
伯爵領を管理するための館としてはそれなりに広かったが、実際見てみると造りはそれほど豪華なものではない。町の宿屋くらいなものか。
普通貴族と言えば無駄にでかい敷地に城のような馬鹿でかい家を建てて周りにいくつもの離れなんかを建てちゃったりなんかしているイメージだったからちょっと拍子抜け。中は埃と蜘蛛の巣でデコられてるし。
――だが考えようによっては奴隷垂涎のプレミアビンテージといえなくもないのかもしれん。
考えようによっては味のある古さといえなくもない。掃除して傷んだ所を補修すれば住めるようにはなるのだろう。どのくらい傷んでいるかまではまだわからないが。
――……素晴らしいな。奴隷の仕事があっけなく見つかったじゃないか。
奴隷の初仕事として不足はないだろう。結構広いし結構汚い。ここの掃除を命じておけばしばらくは暇を持て余すようなことにはならないはずだ。
俺は魔物を焼き払うのは得意だが建物を掃除するなんてできない。そもそもビンテージというものが嫌いだ。触りたくもない。俺が好きなのは新品なのだ。未使用品なのだ。何故中古に手間暇をかけなければならない。ばっちぃ。
――じゃあ戻って奴隷を回収し、さっそく仕事場に放り込むとするか。
俺はさっさと転移点を設置し、即王都へ転移帰還した。
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