第311話


話し合いはシーナがメインで進んだ。

一方的にシーナがいかりをぶつけるだけだった。

・・・前日に『シーナはヒナルクが助けに入らなければ死んでいた』と言われたことがショックだったのだろう。


シーナも徐々に怒りが引いていった。

何を言っても反論も謝罪もない。

ただシーナの怒りを受けているだけだ。


「最後までありがとうございます。

言いたいことが言えて、怒りを受け入れてもらったから、気持ちに整理がつきました。

・・・私は、あなたたちを許します。

でも、ごめんなさい。

あなたたちの弟を許す事は出来ません」


シーナの言葉に2人は涙をこぼした。

怒りのまま殺されても当然だと思っていたのだ。

そうでもしないと、死にかけたシーナの怒りはしずまらないと思っていたからだ。

そんな覚悟を持って朝を迎えた。


「どちらが殺されても、どちらも殺されても。

私たちは恨んだりしない。憎んだりしない」


そう話して、自分たちは結界から出たのだ。

・・・しかし、ヒナルクが話し合いに同席していたら、自分たちは殺されないのではないか、と期待を持ってしまった。

でも、ヒナルクは参加しなかった。

そして、シーナの怒りは恐ろしいものだった。

殺されなくても、半死半生にされても仕方がないことをジョルトはしたのだ。

泣きながら、どんなことをされたのかを訴えられた。

獣人族でなければ、死んでいてもおかしくなかった。


「自分が倒れたら妹たちを守れない」


その思いだけで、必死にせいにしがみついていた。

それでも意識が朦朧として死を覚悟した時・・・自分たちを庇うようにジョルトの前に立ったのがヒナルクだった。


シーナは、その時を思い出したのか。

泣きながら怒りをぶちまけていた。

自分たちはその怒りに口なんか出せない。

・・・・・・出せるはずがなかった。

「妹たちのため」に頑張っていたシーナが「死を覚悟した」のだ。

その時の彼女はどんな思いだったのか。

・・・・・・絶望以外、思い当たらない。


それがお礼を言われて許された。

ジョルトおとうとのことを許せないのは当然だ。

エンテュースの神殿で話を聞いてきた。

町の人たちは誰もが口を閉ざしていたからだ。

話を聞いた私たちでさえ、ジョルトたちをひねり潰したいと思った。


・・・それほどシーナは酷い状態だった。


『隷属の首輪』を着けていたため回復に魔法は使えず、回復薬で長時間かけて回復させたという。

さらに、シーナたちを口封じで殺すため、首輪を外すために呼ばれた奴隷商を殺して成り代わろうとした者もいたと聞いた。

だからこそ『許されない』と思っていた。


「ごめんなさい」


「許してくれてありがとう」


私たちにはそれ以外言えなかった。






「話は丸くおさまったね」


スゥの担当ハンドくんたちに話を聞いたさくらは安心したように自分のハンドくんたちに感想を伝える。


〖 はい。シーナは元々思慮深いですからね。

これでシーナは大丈夫でしょう。

問題はあの2人ですね。

ジョルトおとうとのせいでシーナが死にかけた』ことを知ったのです 〗


〖 引け目なくスゥたち3人と良い関係を築けるでしょうか 〗


「『築けるか』ではなく築くしかない。

それも『バツ』だよ。

・・・でも、ワンクッション欲しいかな。

あの子たちはまだ直接関係もつには厳しすぎるから」


〖 ・・・仕方がありませんね。

それに関しては心当たりがありますから、今は早くダンジョンを抜けることを優先しましょう 〗


「・・・?うん。分かった」


ハンドくんの言葉に疑問を持ちながらも頷くさくら。

確かに、ダンジョンを抜けないと、この先も共闘を続けるのか分からないのだ。

スゥたちの希望のぞみ通りにするつもりだが、ジョシュアたちから拒否する可能性すらある。


〖 拒否させませんよ。

共闘それもバツだと思わせれば良いだけですから 〗


ハンドくんの言った通り、ジョシュアたちは共闘の話を聞いて悩んだ。

それでもダンジョンから出る時には『自分たちで役に立つなら』と答えを出していた。


ハンドくんは言ったのだ。

〖 スゥたちが人間社会を知るために 〗と。

ジョシュアたちに拒否は出来なかった。

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