第262話


「ご主人。身体は大丈夫ですか?」


「ああ。大丈夫。それよりスゥたちの方は?

ボス部屋の瘴気、異常だっただろう?」


「師匠のおかげで私たちは大丈夫です」


さくらの言う通り、ボス部屋は扉が閉まっていたため瘴気が濃いままだった。

そのため、ボス部屋の扉を開いたら、『真っ黒な瘴気』が部屋から流れ出てきたのだ。

事前に察知したハンドくんがスゥたちにも結界を張って保護したため、瘴気による影響は現れなかった。


・・・結界が張られなかったらと思うと、スゥはゾッとした。

3人とも、間違いなく瘴気で狂っていただろう。

互いを殺し合うならともかく、ご主人を襲っていたら・・・

その時はきっと、師匠が一瞬で止めて殺してくれたと思うが、『大恩のあるご主人』を危険に晒したことは死んでも許されなかっただろう。



〖 ボス戦でけっこう濃厚な瘴気を受けていましたから、しばらくは休憩にしましょう。

ついでに3人の鍛錬に相応しい場と指導者を用意しました。

と言う訳で、『別荘島』へ向かいますよ 〗


「チョイチョイ。そこのハンドくんや」


〖 ほいほい。さくらさんや、なんじゃいのう 〗


「何がどうなって『そうなった』んじゃい?」


ダンジョンあなぐらの中で、3人が「つようなりたい」と言っておってのう。

鍛錬の場と指導者を用意したんじゃよ 〗


その時はそんときゃあ、わしゃあ何しとると良いのかねえ」


〖 縁側で日向ぼっこや恐竜島で遊んだりしておこうかねえ 〗


「ほうほう。そうかい。そうかい。ほんとうかい」


さくらの調子にあわせて会話するハンドくん。

そんなハンドくんに頭を撫でられて、さくらは満足そうに笑顔になる。

さくらは、こんな些細な言葉遊びでも、城下町への買い食いも、長期の冒険旅行にでも。

必ず自分の『遊び』に付き合ってくれるハンドくんが大好きだ。

ハンドくんは、危険な時以外は決して止めない。

一緒に遊んでくれる。

そして、さくらの喜ぶことなら何でも熟知しているハンドくんは、さくらのためだけに『日本の様々なもの』を揃えている。

ハンドくんに与えられたマンションの一室は、それこそ増築に増築を重ねられている。

さすがに牧場はない。

いや。作ろうとして神々に・・・創造神から泣いて止められたのだ。


〖 さくらに新鮮な牛乳を飲んでもらうため 〗


そのために乳牛を育てようとまでしたハンドくんに、創造神は交換条件として『時間の停止した大倉庫』を与えることになった。

さらに『時間遡行そこう』という魔法を教えて、過去に戻って商品を買えるようにした。

ただし『さくらがアリステイドに来た日まで』しか戻れない。


「ハンドくんに際限なく使えるようにしたら、『さくらが興味を持っていた』と言って通販のない時代まで戻ったり、『さくらが昔食べていたのに販売中止になった』といって買い漁るようになる」


〖 それの何が悪い 〗


「我々が『さくらの元の世界』に干渉出来るのは『さくらがコッチの世界アリステイドに来た時から』という制約になっている」


〖 チッ。余計な制約なんかしおって。

さくらを喜ばせるための邪魔をするとは・・・ 〗



この時、神々は思った。

「創造神に『舌打ち』出来るのはハンドくんだけだな」と。


さらに、同様の理由から『新鮮な卵』を求めてニワトリを育てようとした。

さらにさらに、『瘴気を受けていない新鮮な野菜』を求めて野菜を育てようと、大量の苗を購入しようとまでした。


「分かった。瘴気のない『完全に浄化された空間牧場』をこの世界に作る。

だから農場も牧場も『マンションや無人島で』作るのは止めてくれ」


そのやりとりは、神の館に来ていたジタンも聞いていた。


「それでしたら、城の東へ馬車で1時間のところにある地を提供致しましょう。

以前、そこには町がありましたが、そこの領主だった僭王せんおうが『アグラマニュイ国』をおこして地を離れたときに領地も移転しました。

領民に慕われた方だったので、家族や親族がこぞって移転希望を出したと聞いております。

そこは元々『良質な地質』で、この国の穀倉地帯の一つだったそうです。

さくら様へ献上される『御料牧場』として使われることで、アグラマニュイ国に移られた方々の子孫も喜ばれることでしょう」


「でもよー。

ジタンの言う通りだとしても、誰に働かせるんだよ。

『さくらの世界』って、瘴気が一切存在しないんだぜ。

1日3時間は『こちらの世界の空気』に体を慣らさないといけないんだ。

あの広大な地に『住むことは出来ない』だろ?」


〖 それなら、さくらの『浄化対象外』を居住区にかければ良いでしょう。

『寝ないで働かされる者』はいても『寝ない者』はいませんよね 〗


「過重労働は禁止!」


〖 仕事をサボったバカモノに『サボった分を働かせた』だけです 〗


ヨルクはテレビでみた『さくらの世界』に興味を持ち、一時期『テレビにかじりついて観ていた』ことがある。

それを『仕事に関係がない』と判断したハンドくんたちに〖 働かざる者食うべからず 〗と言われて食事を抜かれた挙げ句に、睡眠を取らず8時間きっちり働かされた。

そこからさらに当日分として8時間しっかり働かされて、仕事が終わると、泥のように眠っていた。

さすがのヨルクも、それ以降は仕事以外の時間や休みの日に見ることにした。

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