第263話


「おはよう。さくら。よく眠れた?」


目を覚ますと、いつものように目の前にヒナリの優しい笑顔があった。

優しく頭を撫でてくれる。

気持ちが良くてまた眠くなる。


「んー。気持ちイイ〜。また寝るぅ〜」


「え?ちょっとさくら?」


〖 さくら。そろそろ起きないと『美味しいおやつ』がなくなりますよ 〗


「やーん。食べる〜」


〖 じゃあ起きましょうね 〗


「ふあ〜い」


ハンドくんたちに上半身を起こされて、目をこするさくら。

抱きしめていた『ダッちゃん』は畳まれたタオルケットの上に乗せられる。


〖 ダッちゃんは『さくらを寝かせる』のが仕事です。

さくらが起きたら、ダッちゃんは『寝る時間』ですよ 〗


そのダッちゃんのカラダにタオルがかけられるのを見守っていたさくらの頭をヒナリが撫でる。


「さくら。お腹すいたでしょ?ゴハンに・・・」


「さくらぁー!朝メシ出来たぞー!降りてこーい」


下からヨルクの声が聞こえてきた。

ヒナリが寝室から飛び出して下へ身を乗り出す。


「もう!私が作るって言ったじゃない!」


「だからオレが起こしに行くって言ったじゃないか。

さくらが降りてから作ってたら、さくらがハラ減らすだけだろ」


ヨルクに正論を吐かれて黙るヒナリ。


〖 さくら。出来たてのゴハンを食べに行きましょうか 〗


「うん」


ハンドくんにパジャマから服に替えられると、ハンドくんたちに起こしてもらい寝室から出る。


「ヨルクー。お腹すいたー」


「ゴハン出来てるぞ。冷める前に食べろよ」


テーブルには、焼き鮭など和食が用意されていた。

ヨルクは炊飯器からご飯をよそうと、座ったさくらの前に置く。

それと同時に、さくらに浄化魔法クリーンをかける。


「よし。食ってイイぞ」


「はーい。いっただきまーす!」


手を合わせてから美味しそうに食べ出すさくらを、ヨルクはヒナリと一緒に向かい側の席に座って嬉しそうに眺める。


さくらたちが別荘島に来るのは聞いていた。


〖 獣人族の3人の少女たちに、『獣人独特の戦い方』を徹底的に教えて下さい 〗


セルヴァンがハンドくんからそう頼まれたのだ。

武器を使った基本的な戦い方はハンドくんたちが叩き込んだ。

しかし、『獣人独特の戦い方と身の守り方』を教えるのはハンドくんよりセルヴァンの方が適任だろう。

それは彼女たちが獣人族に偏見を持つ大陸で強く生き抜いていくためになることだ。

いずれ、成長した彼女たちが獣人族に教えていくことになるだろう。


ただ、『瘴気の強いダンジョンにいた』ため、別荘島に来たさくらはそのまま翌朝になっても起きなかった。

それを心配したスゥたちがさくらから離れようとしなかったため、ヨルクとヒナリが呼ばれたのだ。

その時は3日間ぐっすり眠っていた。

目を覚ましたさくらの開口一番のセリフは「あー、よく寝て疲れた〜」で、心配していた3人は安心すると同時に気が抜けたのだった。


今でも少し長めに眠るが、それはさくらの身体に多少の負荷が残っているからだ。

『指輪の効果』がなければ、さくらは昏睡していただろう。


「さくら。今日は私たちちょっと時間がかかるから、お昼ごはんは一人になっちゃうけど・・・大丈夫?」


〖 お昼は無人島の『鍛錬組』と一緒に取ります。

どうせですから、さくらは魔法で遊びましょうね〜 〗


「魔法で遊ぶのはいいけど、危ないことはしちゃダメよ?」


「大丈夫だよ。ハンドくんとセルヴァンが一緒だもん」


魔法が得意なドリトス様がいれば安心出来る。

しかし、ドリトス様は、スゥたちの武器を強化するため工房にいる。

セルヴァン様もドリトス様ほどではないが、『さくらを止める』ことは出来る。

・・・唯一の問題は、ハンドくんが『さくらが楽しそう』というだけで暴走を許してしまうことだろうか。


そうヒナリは心配したが、だからといって一緒にいられない以上、信じるしかない。


ヨルクとヒナリも、ハンドくんが神々と共に計画し、ジタンの指示で実現に向けて始動した『さくら様御料牧場』の下見をジタンや補佐官のセイルたちと共に行くのだ。

ジタンたちはハンドくんの無重力で浮かせてもらい、地図だけで立案した内容が可能か実際に見て確認することにしている。


植物の知識がある2人にも、開拓前の植物から大体の地面の状態を確認してもらうのだ。

さらに貯水池などに相応しい場所や水脈などを確認していく。

そして、地盤の固い場所に居住区を作ることも決めている。

それらは、実際に見て確かめるまでは『机上の空論』の域から出ておらず、実際に計画を進めることは出来ない。


神の館で地図を開いた時に土の神から「古い地図だな」と言われたのだ。


「ここの泉は今は枯れているわ」


「今は地盤が固いけど、泉の水脈が元に戻ったら人は住めないわ。

元々、良質な泥が取れる場所だったのよ。

上流の山が管理されなくなって、倒木や落石などで水が堰き止められたのよ」


「それは、『水がなくなって乾燥したから固くなった』ということですね」


「そうよ。当代のエルハイゼン国王は若いのに賢いわ」


「ありがとうございます」


事前にそんな話がやりとりされ、改めて調べたら良質な泥で陶磁器を作っていたようだ。


「再び良質な泥が採取されるようになれば陶磁器職人が喜ぶでしょう」


土魔法で食器や花瓶などを作ることが出来る。

しかし職人が作ったものと違い強度は弱く、耐久は1度か2度しかない。

夜と翌朝まで使えればいい、スゥたちの大陸の旅人たちが荷物を減らすために使っているだけで、普通は職人が作った商品を購入している。

職人は泥から魔力を込めて練りあげて、鹿路ロクロを使って作りあげる。

精度が違うため簡単に壊れないが、使用する泥によって耐久性が大きく変わる。

『御料牧場』で新しく生まれる泥には瘴気が含まれない。

その泥からどんな陶磁器が出来るのか。


ウワサを聞いた陶磁器職人たちは、未知の経験に心を躍らせていた。

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