第257話
〖 今日はここでテントを張りましょう 〗
地下18階の広場に辿り着くと、ハンドくんの指示で宿泊が決定した。
さくらは結局シャボン玉から出ることは出来なかった。
「ご主人。大丈夫ですか?」
ハンドくんが大きく結界を張って浄化させたため、やっとシャボン玉から出られたさくらをスゥが心配する。
「ダメ。たぶんこの中では戦えない。
ボスも瘴気の塊だろうし」
「無理しないで下さい。
ボス戦も私たちで何とかします」
「何か起きる前にハンドくんたちも手伝ってあげて」
〖 大丈夫です。
無理だと分かった時は自分たちが出ます 〗
「はい。その時はお願いします」
「ところで敵はどう?やっぱり凶暴?」
「凶暴というより正気を失って暴れている様子でした。
敵味方関係なく、目の前にいる相手と戦っていました。
その姿は、以前お話し頂いた『正気を失った獣人』のようで、『こうなるのか』と思いました」
スゥにはいい経験になったみたいだね。
『シーナとルーナにも『正気を失うとこうなる』と理解出来たようです』
ここに入ってから私は何にも出来ないけど、この子たちには良かったかな?
『さくらのために頑張っています。
少しでも早く踏破して外に出たら、さくらもシャボン玉から出られるだろうと』
スゥの担当ハンドくんから、今日は幾分か強い瘴気の中で戦ってきたため、特にシーナとルーナは早く休むようにと言われて、各々で結界を張りテントを組み立てていった。
さくらもハンドくんに促されて組み立てられたテントに向かう。
「ねえ。ハンドくん。
結界を張ってあるのに、さらに結界を張る必要がある?」
〖
今なら
ですが、いずれ彼女たちが誰かと『新しい共闘関係』を築いた場合、『なれなれしい』と判断されたら信頼を失います。
厳しいかも知れませんが、獣人の彼女たちは細心の注意をしないと、今いる地位から簡単に蹴落とされます。
ユリティアでも、スゥたちをパーティから共闘に切り替えた途端に、彼女たちを蹴落とそうと暗躍していた連中がいました 〗
「・・・何だ?それ」
〖 私の可愛いさくらを『可愛い男の子』と思い、自分たちのパーティに入れてペットにしようとしていた 〗
「・・・ペットじゃないモン」
〖 当たり前です。
ですから、さくらが見つからないように魔法をかけました。
たぶん、連中はさくらを見失って右往左往していますよ 〗
「だから、ハンドくんはこの『瘴気の強いダンジョン』に入ったの?」
〖 そうです。
ここは普通にクリアするのに15日かかります。
その間に『いなくなったヒナルク』を探して、見つからずに諦めてくれたら『万々歳』ですね〜 〗
「ハンドく〜ん」
〖 さあ。可愛いさくらは美味しいごはんを食べて寝ましょうね 〗
「やーだ」
〖 おや?反抗期ですか?受けて立ちますよ? 〗
「『デザートを食べて』から、ダッちゃんとハンドくんと一緒に寝るんだもん」
さくらの『可愛い反抗期』にハンドくんは頭を撫でて、〖 さくらの反抗期が酷くなる前にそうしましょう 〗と言い
今日のごはんはワンプレートの『ロコモコ』だった。
簡単に言えば『ハンバーグに目玉焼きを乗っけちゃいました〜』というものだ。
これにシーザーサラダ。
デザートにはサッパリ味のヨーグルトムース。柚子ソース掛け。
〖 さくら。『魔石の精製』をしてから寝ますよ 〗
「お昼にやったー」
〖 だからですよ。
あの時10万個を超えましたよね。
それからずっとシャボン玉から出ていません。
それでも魔石が多く出来ているなら・・・ 〗
「・・・多く出来たら?」
〖 シャボン玉の厚さを変える必要があります 〗
ハンドくんの『思わせぶり』なセリフに『別荘待機』を言い渡されるのではないかと緊張していたさくらは安心して笑顔をみせた。
さくらが精製した魔石は約3万8千個。
ハンドくんは、翌日からシャボン玉の厚さを2倍にすることにした。
翌日から、10階降りる度に1時間の休憩をすることになった。
ユリティアにいた頃にシーナとルーナが『瘴気に当てられた』ため、確実に身体を休めることを重点に置いた。
〖 ここは通常以上の瘴気を含んでいます。
少しでも無理をすれば正気を失います。
別に、ご主人の『金ダライ』のエジキになりたいなら構いませんよ?
たぶん『死なないと思います』が・・・ 〗
「いえ。無理せず進みたいと思います。
体調が悪くなったらすぐ報告します」
シーナの言葉にルーナが頷く。
無理をして、自分たちが足を引っ張ってはいけない。
自分たちより瘴気に弱いご主人を『シャボン玉から出て戦わせる』なんてさせてはいけない。
2人はそう誓い合った。
そしてスゥに頼んだ。
『自分たちの様子が少しでもおかしくなったら、すぐに止めて欲しい』と。
二度と同じ過ちを繰り返さないために。
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