第253話


ダンジョンに入っても、何故かシャボン玉から出してもらえません。

確かにまだここは『小規模ダンジョン』と変わらない弱小魔物しか出ていません。

シーナとルーナでも一撃で倒していけます。


・・・ねえ。ハンドくーん。


『今は良い子でいて下さい』


・・・金ダライ。


『トラップ発動後に使わせてあげます』


・・・おやつ。


『あと1時間待ちましょう。

6階に降りる手前に『きれいな休憩場所』を見つけました。

そこでちょうどお昼になりますね。

お昼は『ヒナリとヨルクの作ったサンドウィッチ』ですよ』


ヤッター!って、ヨルクも?!


『パンにバターを塗っています。

あとは具材を挟んでいますね。

何の具材かはお昼のお楽しみです』


ハムかな〜。チーズかな〜。鳥のササミかな〜。

トマトかな〜。カツかな〜。厚焼きたまごかな〜。


『あ・と・で。のお楽しみです』



後ろからコソコソついて来ている女性冒険者たちは、この先に待っている『トラップ』に全く気付いていなかった。




〖 そこを曲がったら、全員、口を閉じて目も閉じてください 〗


「なんかあるの?」


〖 はい。『きれいな休憩場所』を見るには口を閉じてもらう必要があります。

目は・・・まあ、見てからのお楽しみです 〗


先頭のスゥが角を曲がると、立ち止まり両目を閉じて口を閉じる。

続いて曲がったルーナは両目と口を閉じて両手で耳を塞いだ。

さくらは薄目を開けていようとして、ハンドくんたちに両目と口を塞がれた。

シーナはしゃがんで、ルーナと同じように両目と口を閉じて両耳を塞いだ。

さくら以外はフワリと身体が浮いて膜に覆われた。

そしてハンドくんの無重力魔法で天井近くまで浮かぶと、そのまま透明な膜を通り抜けた。




〖 さあ。目を開けて大丈夫ですよ 〗


「う、わ〜」


「すご・・・い」


目を開けると、さくらの結界が張られていた。

周りの壁に埋まった数多くの水晶が青白く光っている。

それは幻想的な光景だった。


「ハンドくん・・・『石がお喋りしている』よ」


さくらの言うように、『シャララララー』というすずやかな音が水晶から聞こえてきます。

それが会話しているように、囁くように小さくあちこちから聞こえてくるのです。


〖 さくら。この風景を覚えていますか? 〗


「ケセラン・パサランが見せてくれた景色?」


〖 そうです。

『彼らは此処で生まれた』んですよ 〗


「そっか。だから、魔物なのに『優しくてきれいな心』を持っているんだね」


〖 彼らが鉱石に戻ったら、自動で此処へ戻れるようにさせましょう 〗


「やってくれるかなー?」


〖 『出来るか出来ないか』ではなく『やる気があるかないか』です。

大丈夫です。

もしも拒否なんかしたらハリセンです。

もちろん『オリハルコン』で 〗


出た!『ブラック・ハンドくん』


『誰です?そーんなことを私のカワイイさくらに教えた『命知らずのバカ』は』


さくらは両手で口を塞ぐ。


『オヤ?『お昼ごはん抜き』がいいですかねぇ。

せっかくヨルクも一緒に作ってくれたのに。

デザートも用意しましたが・・・』


オリハルコンで殴っちゃダメだよ?


『分かりました。

『紙のハリセン』にしましょう。

それで誰ですか?』


・・・・・・・・・。


『さ・く・ら?』


・・・・・・・・・。


『さ〜くらちゃ〜ん』


・・・・・・・・・。


『では代わりに『土の神』でもぶん殴って来ましょうか』


あー!ハンドくん!『頭の中』読んだー!


『読まなくても分かります。

・・・で?これはどういうことでしょう?』


さくらはハンドくんを握りしめている。

そんなに掴まなくても大丈夫なのに。

こうして掴まれていても、一瞬で抜け出す事は可能だ。

でも、無理に抜け出そうとは思わないハンドくんだった。




だって・・・。

離したらハンドくん殴りに行っちゃうでしょ?


『行きませんよ。

私が離れたら、誰が『さくらの世話』をするんです?』


左手のハンドくんは?


『後ろで『お昼の準備』をしてますよ』


さくらが振り向くと、左手のハンドくんが『ひらひら〜』と手を振ってくれ、それに合わせて他のハンドくんたちも手を振る。

それに笑顔で手を振って応えるさくら。


だからと言って土の神が無事とは限らない。

神の館の温室でハンドくんたちの襲撃フルボッコにあった。


〖 誰ですか?

私たちの大事なさくらに、私たちのリーダーを『ブラック・ハンドくん』と教えた『バカミ』は・・・ねぇ? 〗


その様子に他の神々は苦笑する。

土の神は以前、ハンドくんとの言い合いで負けた神だ。

それ以外でも、手のひらハンドくんの上でコロコロ、コロコロ、コロコロ、コロコロと。

そりゃあもう、面白いくらい転がされまくっている。

・・・ハンドくんにとって、土の神はヨルクと同じポジションだった。




〖 そろそろ昼食に入りなさい。

それともお昼抜きで頑張りますか?

それもいいですが、ここから先は強敵が出ます。

スタミナ切れで倒れても助けませんよ 〗


ハンドくんの言葉に3人は「「「はい」」」と返事して、各々結界を張って魔導キッチンを出して料理を始めた。


〖 さあ、さくら。

ごはんの準備が出来ましたよ 〗


「ヤッター!

ヒナリとヨルクの作ってくれたゴハンだ〜!」


はしゃぐさくらの頭を撫でながら、ハンドくんは仲間たちに『GO』を出した。




〖 こちら『トラップ』の前。

全員配置につきました。

今から『発動』させます 〗


リーダーに『作戦実行』を伝えて、最奥の壁に埋められた5個の魔石にハンドくんたちが同時に魔力を送る。

透明になっているハンドくんたちに、追いかけて来た『ヒナルクと邪魔なオマケたち』を見失った女たちは気付かない。

最奥の広場まで間違いなく前を歩いていた。

彼女たちはそう信じていたが、その手前ですでに『水晶部屋』へと移動していた。

・・・それ以前に、さくらは町を出て10分しか歩いておらず、『前を歩いていた』こと自体が間違いだったが。


そのため、『どこかに隠し通路がある』と思い込んだ全員が広場を調べていた。

その時、奥の壁でカチリと音が鳴り、ついでゴゴゴ・・・と壁の一部が上がっていった。

その先に階段がある。

『隠し通路』の存在に誰もが驚いたが、『この先にヒナルクが行った』と思い込み、1人が上がりきっていない壁をくぐり抜けて階段を駆け下りると、後に続くように降りて行った。


〖 報告します。

女たちは全員『トラップ起動中』の階段を駆け下りて行きました 〗


〖 ご苦労様でした。

では休憩して魔力を回復後、通常任務に戻って下さい 〗


〖 はい。了解しました 〗


彼女たちは、曲がりなりにも『冒険者』に籍を置いている。

だからこそ、壁が動いた時に気付かなくてはいけなかった。

『自分たちはこんな音を聞いていない』と。

そして、考えなければいけなかった。

『何故、壁が動いたのか』と。


しかし、壁が開いたことで『長年溜まってヘドロのようにドロドロで濃厚になった瘴気』が漏れ出した。

それはヒナルクへの欲望が溢れ出していた彼女たちの1人が行動に移すとともに、全員が最後の理性が姿を消して『欲望に忠実なシモベ』と成り下がった。


・・・そして、『この先にヒナルクがいる』と、『きっと自分を待っている』と思い込み、『トラップ発動中』の階段に身を躍らせていった。

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