第252話

さくらは10分もしないでハンドくんの無重力空間シャボン玉に入って移動していた。


〖 この先で道をそれて崖を登ります。

スゥたちの脚力の鍛錬です。

獣人ですからね。

『整備された道』を歩くだけでは3人の鍛錬になりません 〗


「はい。ご主人は無理をしないで下さい」


〖 『見守る』のも大事です。

『何か気付いたことがあっても、今は知らないフリをしてて下さい』 〗


「はーい」


「分かりました。お願いします」


ハンドくんはさりげなく後半にスゥたちへ『つけてくる連中は放って置きなさい』と忠告した。

スゥはそれに気付き、さらに主人には気付かれないよう返事をする。

シーナとルーナも頷き同意する。

それと同時に気付いたことがあった。

ハンドくんがさくらをシャボン玉に入れてから、つけてくる連中の気配がおかしくなっていた。

それまで気付かれない様に行動していた連中が、今は。その隠密行動がまるっきり出来ていないのだ

理由は簡単だ。


『ヒナルクの後ろ姿が見えなくなった』


そのため必死にその姿を探そうとしていたのだ。

獣人の3人は一緒にいる。

だからヒナルクも一緒にいるのだろう。

だが、ここは森の道のため『けものみち』な上、くねくねと大岩や木々を避けて道が曲がり、背の高さまで伸びた草が生い茂っている。

草の上から背の高い獣人の頭部や、道を曲がる獣人の背中が見えるだけだ。

この先にあるダンジョンは1つ。

間違いなく、前を行く一行はそこへ向かっている。

獣人とはいえ子供だ。

だから自分たちがついて行ってることに気付いていない。


『獣人なんて大したことはない』


そう嘲笑う謎の集団だったが、すでに気付かれていて泳がされているとは思っていなかった。





鍛錬という名のショートカットに成功したさくらたちは、そのままダンジョンに潜る。


〖 此処は見かけは小さなダンジョンです。

ですが『トラップを発動』させますから、これからは大体15日で踏破出来る『大規模ダンジョン』になるでしょう 〗


「トラップは永続?」


〖 はい。此処は元々『大規模ダンジョン』です。

ですが、今までトラップに気付かれず、5階までの小規模ダンジョンと思われていたようです。

不思議ですよねー。

『ボスがいないダンジョン』なんて存在しないのに・・・。

奥まで行って、また入り口まで戻って来ていたんですよ。

何を考えているのでしょうねー。

『何も考えていない』から、少し頭を使えば分かることも気付かないのでしょうねー 〗


・・・ハンドくんが毒舌キャラになってるぅー。


「・・・ねえ。ハンドくん」


〖 はい。どうされました? 〗


「・・・トラップ発動後、このダンジョンの魔物って」


〖 今まで出番がありませんでしたからね。

隙間がないほど、たあーっぷり!詰まっています。

3人も。ちょっとでも気を抜くと『お亡くなり』になりますよ 〗


そっとスゥたちを脅すハンドくん。

でも『注意一秒 ケガ一生』って言葉もあるからね。

大袈裟なくらい注意を促した方がいいよね。


「んー?みんなで入った『はじめてのダンジョン』と比べると?」


〖 あの大歓迎を受けた『魔獣の』は『お子さま相手』ですね。

ちなみに此処は『お子さま以上大人未満』です 〗


「今度は、ご主人と師匠の手を煩わせることがないよう戦い抜きます」


スゥの言葉にシーナとルーナも頷く。

彼女たちはハンドくんの指導通り、直接口を聞かない。


〖 2人が慣れるまではずっと続けます。

どこで誰に見られているか分かりません。

それに銅板の2人は『銀板所持者ヒナルクより立場が下』です。

従者を辞めた以上、許可なく話しかけることは出来ません。

これからは、何かあれば『不敬罪』になります。

それは共闘関係でも同じです 〗


だから、『発言の許可を貰えばいい』んだけど・・・何故か、発言をしなくなりました。

スゥからも「自分で発言の許可を貰わないといけないのです。私たちが気を利かせていては彼女たちのためになりません」と止められました。

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