第244話
私たちがユリティアに戻ったのは、ひと月してからだった。
ハンドくんからは、シーナとルーナの2人が猛省し、今は真っ直ぐに生きていると教えてくれていた。
「スゥ。いつでもいいから、彼女たちの様子を確認してくれるか?
共闘出来るまで強くなっているか。
オレを前にしても、もう甘えを見せないか」
「ご主人。師匠。強さを確認するなら小規模ダンジョンに潜って来てもいいですか?」
「それはスゥの好きにすればいい」
「はい。分かりました。
ご主人と師匠はどうされますか?」
〖 スゥがダンジョンに連れ出している間に、ギルドで売却したり 〗
「屋台で買い食い」
〖 それはほどほどにしないと、夕食が食べられなくなります 〗
「屋台で買い食い」
〖 他に希望は? 〗
「ジュースの買い飲み」
〖 スゥ。出掛けるのは午前からにしてください。
このご主人は、昼食を屋台で食べたいようです 〗
「分かりました。
師匠。2人がどこに泊まっているのかご存知ですか?」
〖 冒険者ギルドの3階に泊まっています 〗
「分かりました。
今から会ってきて『3人だけでダンジョンに行く』と伝えてきます。
ご主人と師匠は『まだ2人と会わない』でいいですか?」
〖 ええ。スゥから見て『会うにはまだ早い』のであれば、会うのは時期尚早でしょう 〗
「スゥ。オレたちと会って、彼女たちがこれまで努力してきたことが崩れるなら会えない」
「はい。分かりました。
では行ってきます」
スゥはお辞儀をして部屋から出て行く。
「あの子・・・。ホントは『護衛』なんだから、こんな事しなくていいのに」
〖 スゥのアレはすでに『趣味』です。
好きでやってる事なので放っておきましょう 〗
「ハンドくんは?」
〖 何ですか? 〗
「ハンドくんは、ずっと私の世話をしてくれるけど・・・
お休みしないで大丈夫なの?」
さくらは『自分の冒険旅行に同行してて、ハンドくんは1日も休みを取っていない』ことを気にしているのだ。
神の館にいる時は、セルヴァンたちが一緒だったし神々も一緒にいた。
何より、ハンドくんの結界に神の結界という二重結界に守られていたため安全だったのだ。
唯一、『ヨルク』という『ハンドくんの天敵』がいたが、セルヴァンの
そのためハンドくんが『休んでいる時間』がとれていたのだ。
ただし、ハンドくんは無人島で『さくらのため』に魔法の研究と練習をしていたが。
〖 私の仕事は『さくらのお世話』です。
そして、私の唯一の趣味は『さくらをお世話しつつ甘やかして可愛がり構い倒すこと』です。
いやー。趣味を仕事に出来るって良いですよね。
という事で、私は『カワイイさくらから離れません』からね 〗
そう言いながら、ハンドくんたちはさくらの頭や頬を撫で回す。
ハンドくんたちは、まだ筆談をしていた頃から『さくらへの愛情』を示すため頭を撫でていた。
それは『会話』という愛情が伝えられる手段が確立しても続いている。
さくらとのスキンシップで、ハンドくんたちは『さくらへの愛しさ』が増していく。
ハンドくんたちにとって、スキンシップは『自分たちへのご褒美』になっているのだった。
「では、ご主人。師匠。行ってきます」
「ああ。気を付けて行っておいで」
翌朝、スゥはシーナとルーナの二人に同行して小規模ダンジョンへと出かけて行った。
スゥは手を出さず、2人について行くだけにするそうだ。
『共闘』になる以上、戦闘力と判断力が重要になってくる。
スゥはそれを実戦で身につけてきた。
スゥの現在レベルは257。
十分1人でも中規模ダンジョンをクリア出来る強さを持っている。
そのため心配はしていない。
スゥ担当のハンドくんたちもついて行くため『もしも』が起きても大丈夫だろう。
問題は『別のところ』にあった。
「ねえ、ハンドくん。
共闘になったらどう接したらいいの?」
そう。さくらは『一度突き放した2人』との距離感に悩んでいたのだ。
〖 基本はパーティの時と変わらなくていいです。
食事やテントが別なのはスゥと同じです。
違うのは『さくらの世話をしない』ことと、『さくらも我々も2人の指導をしない』ことですね。
つまり『自己責任』を促すということです 〗
「裏を返すと?」
〖 自分のことは自分で責任を持て 〗
ハンドくんの断言にさくらは笑う。
「ちなみに私の責任はハンドくんが持つの」
〖 ちがいます。
さくらの責任は『創造神』が持ってくれます。
ですから『好き勝手』して、いっぱい楽しみましょうね〜 〗
「は〜い」
さくらは笑顔で返事をする。
そんなさくらの頭を撫ででいるハンドくんに、速攻でチャットが届いた。
『ちょっと待て』
〖 なんですか?のぞきの神様 〗
『・・・。
さくらに『好き勝手』させ過ぎないでくれ』
〖 気にしないで下さい。
『さくらの笑顔』のためですから 〗
『気にするだろう』
〖 それでは、さくらに言いましょうか?
『創造神が自由にするな。楽しむなと言ってきました』と 〗
『・・・おい』
〖 じゃあ、『さくらに楽しんでもらうために、貴方が全面的に責任を持つ』でいいですよね? 〗
創造神がハンドくんに敵うはずはなかった。
〖 心配しないでください。
さくらに犯罪をさせる気はありません。
ただ、さくらに『好きなことをしていい』と思ってもらうためです。
そのためには『誰が責任を持つのか』をさくらは気にします。
それでしたら『
もし『アリスティアラが責任を取る』と言われたら、『何かあれば創造神に叱られる』と思います。
つまり、『さくらのため』にも『尊い犠牲』になってください 〗
『さくらのため』という、創造神にとって弱い部分を突かれて、諦めることになったのだった。
スゥが戻ったのは夕方になってからだった。
先に夕食にして、さくらの部屋で報告を受けたのは疲れたであろうスゥを早く休ませるためだ。
「ご主人。報告します。
2人と共闘するには『戦闘能力の低さ』が一番気になります。
それは経験が少ないからだと思います。
実際、本日の時点でシーナがレベル131。ルーナは97です」
「他に気になったことは?」
「明日は休みにしましたが、明後日に中規模ダンジョンに泊まりで入ってきたいと思います。
・・・その時に、確かめたいことがあります。
申し訳ございませんが、ご主人はこの町で残っていて下さい」
〖 何か気になったことがあるのですね 〗
「はい。それが具体的に何だとは、自分でもハッキリ分からなくて言えないのですが・・・」
「分かった。気をつけて行っておいで。
今日はお疲れさま。
明日はゆっくり休みなさい」
「はい。では先に失礼します」
スゥは頭を下げて、隣の『控え室』へと戻って行った。
「担当のハンドくん。
スゥは何を気にしてると思う?」
〖 今日一日、スゥと共に2人を見守ってきましたが、旅を始めた頃と比べると『獣人の本能』に頼って戦っているように思えました 〗
「つまり、『戦略』がないということ?」
〖 はい。『目の前の敵』を倒しているようです。
以前と違うのは、気配察知と危険察知を使うようになったというところでしょうか 〗
「んー。じゃあ、スゥが気にしているのはなんだろう?」
〖 それは・・・秘密です。
中規模ダンジョンから帰ったスゥが気付いていなければ、その時に報告します 〗
「うん。分かった。
じゃあ。明後日もスゥたちの見守りをお願いね」
〖 はい。お任せ下さい 〗
スゥが気になっていた事が判明するのは、中規模ダンジョンからユリティアへ無事に帰って来てから。
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