第245話


スゥが時々手を貸して中規模ダンジョンをクリアしたのは3日目の昼。

共闘の結果、スゥは『まだ早い』と判断していた。


「ご主人。2人は『こうしたらご主人に誉められるだろう』という打算で行動をしています。

その結果、『師匠たちから教わったこと』が守られていません。

小規模のダンジョンではレベルと攻撃力で遅れを取っても『本能』で何とかなってきました。

ですが、中規模ダンジョンでは敵の動きについていけませんでした」


「で?ついていけなくてどうなった?」


「師匠にハリセンで殴られました」


〖 ハリセンでブン殴りました 〗


「『真鍮オリハルコンのハリセン』で?」


〖『紙のハリセン』で。

再教育はスゥの担当たちがしましたから 〗


「師匠たちの説教付きです」


「一発だけじゃなかったんだろうなー」


〖 当たり前です。

何度教えても覚えないなら、スパルタで身につけさせます。

これは『生命に関わる問題』ですから。

二度と忘れないように身体に叩き込みます 〗


「その事があったので、もう一度2人は『やり直し』をするそうです。

それで、2週間後にもう一度3人でダンジョンに行きたいと思うのですが。

許可をいただけますか?」


「ハンドくんたちもそれで良い?」


〖 はい。それでダメなら『共闘』の話は消滅です。

一緒に行動するだけなので、滞在費や身分証の更新などが必要になりますが・・・

まあ『仕方がない』ということで 〗


「教えてたことが守れないなら仕方ないね」


「自業自得です」


「スゥ。それを言っちゃあ『お終いおしめぇ』よ」


〖 そう。『いまさら』ですね。

『言われたことを守らなかった』から、パーティの追放に従者失格となりました。

『現状』を招いたのは、彼女たちの『自業自得』です 〗


「はい。そうでした。

ご主人と師匠が彼女たちに『やり直すチャンス』を繰り返し与えて下さったから、現在いまがあるのですね」


スゥのレベルが257から262に上がっている。


『不慣れな2人のフォローをしていたからでしょう』


スゥの努力にこたえてくれるといいけど。

今のチャンスがあるのは『スゥの頑張りのおかげ』なんだから。





シーナとルーナも、スゥが頑張って自分たちを導いてくれることに気付き、深く感謝している。

だからこそ、スゥに教わった様々なことを心に刻み、2週間後にもう一度スゥと中規模ダンジョンに潜った時には、見違えるほど動きが良くなっていた。

そんな2人の努力が認められて、スゥとハンドくんたちからも『共闘の許可』が出された。

そして、追放されて4ヶ月ぶりにご主人さくらに会い、心から謝罪と感謝を伝えることが出来た2人は『自分たちの立場』をわきまえて、これからも冒険者ギルドの宿泊施設を使おうとした。


〖 これまで頑張ってきたスゥへのご褒美です。

ユリティアに滞在する時はスゥと同じ部屋に泊まりなさい。

ただし、食事の同席は認めません。

買い物や屋台などへの同行も許されません。

もし同席や同行が許されたとしても、ご主人に話しかけることは許されません 〗


ハンドくんにそう言われて了承した。

厳しいことを言われたが、ハンドくんが禁止したことは『ヒト族の常識』だ。

従者や護衛など『ご主人の側につくことが許された職』以外は同行が許されていないし、話しかけることも許されていない。

この先も一緒に旅をする以上、二度と『これだから獣人は・・・』と白い目を向けられないよう、『人と共存・共闘をしていく以上、最低限必要なルールのひとつ』を教えられただけだ。

共闘関係者であっても、『ヒナルク』は銀板所持者である以上、立場も身分の違いもある。

『線引き』を間違えれば、簡単に『不敬罪』になってしまう。

主従関係を解消しても立場は変わらない。

いや。主従関係を結んでいた頃の方が『身近な関係』だったのだ。


シーナもルーナも、そのことをスゥから教えられて、公私を使い分けるスゥの言動をマネするのではなく身につける努力をするのだった。


そしてスゥも、3人の時は『年相応の表情』に戻るようになってきて、さくらやボズたちは安心したのだった。

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