第243話


疲れきっていたシーナとルーナが目を覚ましたのは、ベッドに入った翌々日だった。

・・・空腹で目を覚したのだ。


「ルーナ。目が覚めた?」


久しぶりに聞いた、シーナの穏やかな声。

声がした方を見ると、窓側に置かれたテーブルセットのイスにシーナが座っていた。

身体を起こして周りを見回す。

宿のように見えるけど、私たち獣人が泊まれる宿はあっただろうか?

ここがどこなのか。

冒険者ギルドでシーナに抱きついて泣いてから覚えていない。


「・・・シーナ」


「まずはご飯食べよ?さっき屋台で買ってきたの」


シーナがテーブルに屋台の料理を並べてくれる。

いい匂いがしてお腹が鳴った。

でもごはんの前に伝えたいことがある。

聞いてほしいことがある。


「シーナ。わたし・・・今までごめんなさい!」


他にもいっぱい言いたいことがあるのに、シーナの前まで行くと、頭の中が一杯で言葉が出てこなかった。

だから、一杯頭を下げた。


「ルーナ。私の方こそゴメンね。

ずっと冷静になれなくて、ルーナを振り回し続けてきた。

今まで本当にゴメン、ね・・・」


頭を上げると、シーナが手で顔を押さえて泣いていた。

こんな姿、ずっと見たことがなかった。

村に住んでいた頃も。

『奴隷』として閉じ込められていた時も。

『首輪』が外れてからも。


「シーナ。もう一度、ここからはじめよ?

私もちゃんと戦う。

戦って、強くなるから」


私たちは抱き合って泣いた。

いっぱい泣いて、テーブルに出てた料理は冷めちゃったけど、でもアイテムボックスに入ってた温かいのも一緒に食べた。

いっぱい話して、いっぱい泣いて、いっぱい反省もして・・・


その日は、久しぶりに一緒のベッドで眠った。




翌日から、冒険者ギルドで『キャンプに必要なもの』をイチから教えてもらった。

初心者用セットに入っていた『使い方』と『サバイバルの基礎』。

それを見ながら、足りないものを聞いていった。


「差し出がましい事を申しますが」


そう言った男性職員が、スゥが真っ先に『魔導キッチン』を購入していたことを教えてくれた。

冒険者なら、真っ先に購入するものだそうだ。

新品じゃなかったら、銀貨1枚で購入出来る。

塩とフライパン、焼き串しか揃えていないとシーナが言った。

家で料理を手伝っていた時は包丁やまな板、鍋も使っていた。

私たちは、料理を乗せるお皿も『ヘラ』も『おたま』も何もない。

そんなことも忘れていた。

なんでもシーナに任せていた。ううん。押し付けて『知らん顔』してた。

調味料で、覚えているのを選んでシーナがいるカウンターに持っていった。

それだけなのに、シーナからは「ありがとう」と言われ、職員さんから「偉いわね」と誉めてくれた。

・・・私は偉くない。

ダメな私を見捨てずに一緒にいてくれたシーナの方が、ずっとずっと偉いんだ。




色々と購入してから中央広場へ行った。

屋台では『大人しく並ぶ』。

昨日、シーナに注意されたこと。

スゥが出来ているのに、『ちょっとお姉ちゃん』の私が出来ないのは恥ずかしい。

周りの目が痛い。聞こえてくる言葉から逃げたいと思った。

でも、昨日シーナと約束したんだ。『もう逃げない』って。

今までの自分たちが・・・ちがう。私がワガママで『悪かった』んだから。

スゥなんて何も悪くないのに、私たちのせいで『白い目』で見られてきたんだ。

でも、スゥはちゃんと『自分の行動』で乗り越えたんだ。

だから、今日から私も頑張る。

シーナが手を握ってくれた。

『一緒にいるから』って。

『大丈夫だよ』って。

握ってくれた手から伝わってきた。






「今回はゆっくり休めたようだな」


「はい。亭主が『ご主人様のお言葉』を伝えて下さったお陰で、私たちは『自分の過ち』を反省出来ました。

これからは、確実にひとつずつ強くなれるように頑張ります」


「私はスゥみたいになれないけど・・・

ご主人さまから『認めてもらえる』ように頑張ります」


2人は、見違えるほど『健康的』になっていた。

それは身体も精神ココロも。


「ああ。ちゃんと『生きた目』に戻ったな。

ヒナルクの言葉を伝えた甲斐があった。

これ以上、アイツを心配させるなよ」


「はい。ありがとうございました」


「行ってきます」


2人は挨拶をして門を出ていった。

これなら大丈夫だろう。


・・・これで、ヒナルクから貰った恩を少しは返せただろうか。






はじめて皆で入ったダンジョン。

シーナと「はじめからやり直そう」と決めた時に、最初に入るダンジョンは2人とも『ここ』しか考えられなかった。

ご主人さまたちと離れて最初に入った時はボス部屋まで行けなかった。

その後の入ったどのダンジョンも、ボス部屋にはたどり着けていない。

現れる魔獣を一体ずつ倒して、そのままアイテムボックスに入れていく。


『初心者なら、解体は広場かダンジョンを踏破して外に出てから、結界を張ってその中でするといい』


ギルドでそう教えてもらった。

1体に何時間も掛かるなら、まとめて解体するか、ギルドで解体費用を出せばいい。

1体に銅貨1枚と言われた。

私たちは、広場で食べる魔獣を解体して、ダンジョンを出てから『解体する日』にすることにした。

一瞬で解体出来るという『解体用ナイフ』がレアであったけど、金貨500枚もする高価なものだった。


「私たちは経験値を得るためにも、ひとつずつ解体していこう。

それでも、いつか買えるといいね」


今回は銀貨にしたけど、本当なら金貨を1枚貰えたはずだった。

そうシーナが話してくれた。

今回は『やり直すための買い物』があったため銀貨にしたそうだ。


「今度から、売却したら金貨を最低でも1枚『貯金』出来るようになろう」


そう言ったらシーナは賛成してくれた。

『解体用ナイフ』を買うか分からない。

実際に金貨500枚貯められるか分からない。

でも、何か目標があればきっと頑張れる。

今は『金貨500枚貯めてナイフを買おう』という目標だけど。

きっと、それが達成出来たら、私たちは自信が持てると思う。

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