第239話


中規模ダンジョンに入ると、少数の敵ならスゥが。

10体以上出てきたらスゥとハンドくんが。

2種類の魔物や20体以上出てくるとスゥとハンドくんにさくらも加わる。

これまでと違い、スゥひとりに戦わせることは出来ない。

それは『共闘関係』になったからだ。

さくらもハンドくんもケタ外れの強さだ。

しかし、スゥは猫種独特の素早さでカバーしている。

そのため2人についていけるようだ。

だからといって、無茶をしてるわけではない。

『できること』を確実にしてるだけだ。


ユリティアで休んでいる間に、3人の武器はドリトスに預けられてメンテナンスされた。

鵡鳳の攻撃力は6,552。

白金プラチナのハリセンは『真鍮オリハルコンのハリセン』になり、攻撃力は5,182。

苦無の攻撃力は620。

ちなみに鵡鳳と苦無は名前が変化しないタイプ。


『ハリセンはドリトスが作ってくれました』


私の銃もだよね?


『あれは『さくら専用』ですから。

メンテナンスも必要がない『特別製』です』


ハリセンは、ハンドくんがヨルクを叩く時に間違えないように、だよね。


『残念ですねぇ。

たまには間違えて叩いても良いかと思うのですが』


ハンドくんが『間違えた』と言わないように、でしょ?

そんなことになったら、ドリトスがヨルクに文句言われちゃうよー。


『そうですね。

『ドリトス』が責められないように『一瞬』で』


だーかーらー。

それはダーメ!


『それでは、今日のスイーツには『ブッシュドノエル』の小型版を用意しましょうね』


わーい!

チョコの『おうち』つき?


『トナカイもつけましょうね』


やったー!



すっかり『ハリセン』のことを忘れたさくらだった。

『ケーキでヨルクを売った』ともいう。





「スゥ。今日は此処までだ。

『共闘』初日だからな。

ひとりなら色々とやることがあるだろう。

分からなかったり困ったことがあれば、担当のハンドくんを頼れ。

ハンドくんたちはそばにいるが、手伝いはしないからな」


「はい。分かりました。

ご主人。師匠。今日は色々とご指導ありがとうございました。

明日もお願いします」


「ああ。お疲れさん」


〖 今日はゆっくり休みなさい 〗


「はい。失礼します」



スゥはさくらたちに挨拶すると、床に結界石を置いて結界を張った。


「そーいえば、『結界石』って使ったことないね」


〖 高性能な『さくらの魔石』がありますからね 〗


「『ハンドくんの結界』もね」


〖 さあ。私たちも結界を張りますね。

今日の良い子のデザートは『ブッシュドノエル』でしたね。

でしたら、今日のごはんは『くるんのオムライス』にしましょうね 〗


「ケチャップの絵も描いて〜♪」


〖 『さくらの花』ですね。

さあ、『キレイキレイ』しますよ 〗


「は〜い」


ハンドくんに言われて、両手を差し出すさくら。

浄化クリーン魔法で『全身』をキレイにしてもらうと、「ありがとう」とお礼を言って、ウッドチェアに腰掛ける。

そこにはすでにサラダとスープ。

そして『卵で包まれたオムライス』が並べられていた。

オムライスには、さくらの希望通りケチャップで『さくらの花』も描かれている。


「いたーだきまーす」


「はい。召し上がれ」


ケチャップライスか、さくらの絵を描いたケチャップか。

口の周りにつけながら、さくらは笑顔で食べ始めた。






「良かった。

さくらが美味しそうに食べてくれてる」


「良かったな。ヒナリ」


「努力したからじゃ」


「・・・こんだけ頑張ったんだもんな」


ヨルクが座卓に目を向けると、そこには焦げたりたまごが破れたり、形の崩れてしまったオムライスがたくさん置いてある。


『さくらに食べさせたい』


その願いから、ずっと前からハンドくんの特訓を受けて、やっと成功したのだ。



〖 さくら。美味しいですか? 〗


「うん♪」


〖 そのオムライスを作ったのはヒナリですよ 〗


「ヒナリが?

でも『料理出来ない』って・・・」


〖 「なにか、さくらの好きな料理を作りたい」ってヒナリが申し出て、何ヶ月も頑張って特訓して作りました 〗


「・・・この『たまごくるん』は、けっこう難しいんだよ。

濡らしたタオルを使って『フライパン返し』の練習もするし」


〖 ヒナリはいっぱい失敗しても、泣きながら頑張りましたよ 〗


「この『お花の絵』も?」


〖 もちろんです。

すべて『ヒナリひとり』で作りました 〗


「いっぱい『愛情』が詰まっているから、美味しいんだね!」



さくらが満面の笑みを見せた場面で、映像は途切れた。



「・・・・・・良かったな、ヒナリ」


ヨルクは隣で俯いているヒナリの頭を撫でると、ヨルクに体当たりしてきた。

ヒナリはヨルクにしがみついて泣いていた。

嬉し泣きだ。

今まで頑張ってきた努力が『さくらのひとこと』で報われた瞬間だった。



ハンドくんがオリジナル魔法の『生中継ライブ』でさくらの部屋のテレビに繋いでくれていたのだ。

そして『頑張ったヒナリのご褒美』として、ハンドくんは『ヒナリが作った』と教えたのだろう。

さくらはヒナリに『特大のご褒美』を贈ってくれた。

言葉で。笑顔で。

たぶん、途切れたのはハンドくんがさくらの頭を撫でるためだろう。

最近はハンドくんが時々繋いでくれるため、さくらの楽しそうな姿が見られるようになった。


目を覚したさくらがハンドくんに甘える姿や、無重力の泡の中に浮かんでハンドくんの声掛けに笑顔で手をあげてハンドくんたちに撫でられて喜ぶ姿。


さくらの『幸せそうな笑顔』が見られるから、『留守番』しているヨルクたちも研究を頑張れるのだ。

そして・・・やはり神の館に残っているハンドくんたちが、毎回『録画』というものをしてくれる。

疲れたりすると、さくらの笑顔をみて、また頑張れるのだ。



・・・うん。この失敗したオムライスは、ハンドくんにアイテムボックスにしまってもらって、オレが食べよう。

ヒナリの『努力』だからな。

オレが美味しく食べよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る