第181話



さくらはのんびりと町の中を探索していた。

見た目は『明るいクリーム色』の髪をボブカットにした少年だ。

姿を変えたのは、『ヒナルク』の姿のままで町中まちなかを出歩くと、客引きやたかりなどの『害虫』がわらわらと集まってくるからだ。

それに気付いた露店管理事務所が厳しく取り締まったため、今では『ヒナルク』の姿でも安心して出歩けるが、それでも露店同士の『些少のいざこざ』は起きるのだ。


『果実商の騒動』はこの露店街でも有名だ。


彼は別の町で門番の手によって捕縛された。

銀板ヒナルクへのぼったくり未遂』以外に、寒村で放置されたまま実をつけた木から根こそぎ収穫して盗んで販売していたようだ。

捕まった果実商は「所有者のいない放ったらかしにされた木から取っていただけだ!」と言い張っていた。

実はその中に『自然栽培』で育てていた農家がいたのだ。

そのため『窃盗罪』が追加されていたのだ。

さらに取り調べで『果実商仲間からの横領』などバレていないことまで自白した。

その仕事には『仲間がいる』ことまで吐いた。

『横領』の際に仲間を『殺す役』がいたのだ。

『殺された仲間』の金銭や果実、商売道具が誰のものかなんて、余程希少なのものでない限り分からない。

それをいい事に『自分のもの』として堂々と盗っていったのだ。

そして『殺した者』は町を出ることが出来ても次の町に入らない限り鑑定を受けない。

町に入れなくても『村には入れる』のだ。

村に入るときに鑑定石を使うような所は少ない。

そのため『罪名:殺人』は分からない。

『街道』で殺されて荷物を奪われても、それは『追い剥ぎにあった』としか思われない。

さらに死体が見つからなければ『罪状』は増えても『事件そのもの』がバレないのだ。





・・・その仕組みが『ジョルトたち』と同じだった事が判明して、国が動き出すことになった。

裏に『犯罪組織』がいると判断されて調査に乗り出したのだ。


大小に関わらず、犯罪者名と罪状は王都に報告される。

先日の『少年少女スリ合掌団』や『装備屋ザーニの店乗っ取り未遂事件』なども王都に報告された。

内容を吟味の上で、少年少女は『犯罪奴隷』とする許可が出たのだ。


『乗っ取り未遂事件』の方は、いまだに解決していない。

『犯罪奴隷』になることは決まっている。

そして甘い汁を吸っていただけの『家族』たちはスリの子供たちと一緒に奴隷商人に売られた。

しかし『当事者』たちの犯した罪がまだすべて『明らかになっていない』のだ。

そのため、まだ『警備隊詰所』内で取り調べを受けている。

彼らは王都から『護送馬車』が迎えに来て、王都で厳しく取り調べを受けてから『犯罪奴隷』にされるらしい。

捕縛された者たちの中には『秘密保持』のために自殺をする者もいるのではないかと思っていたが、捕縛の際に腕に着けられる麻縄が『自殺防止』の魔法を発動しているそうだ。

ただ『自殺防止』の魔法で脱走を防止するのではないため、牢には『脱走防止』魔法が付けられている。


ザーニの店で働いていた『青髪の従業員』も『王都行き』の一人だ。

彼女の『証言』で明らかになったこの事件は、王都で公式に『証言記録』が作られるそうだ。

証言によっては罪の軽減もあり得るらしい。

そのため彼女は自ら王都行きに『サイン』した。

しかし王都では『厳しい取り調べ』が彼女を待っているのだ。

ザーニの店で捕縛された時同様、事態を『軽く甘く見ている』ようだった。





この町に来てから、さくらは何度か『少女の姿』で町に出かけようとしたが、そのたびに何故かハンドくんに止められた。



『性犯罪の被害者にするつもりはありません』



・・・でもハンドくんが一緒じゃん。



『良いのですか?目の前に立つ『相手の首』が胴体からポロリと落ちても』

『頭だけ一瞬で『消滅』するハリセンでふっ飛ばすかも知れませんよ?』



・・・怖いからやめて。

ホラーは嫌いなんだよ。



『レーザーで焼けば血は出ませんね』



そーゆー問題じゃないから!



『では『少女の姿』で出掛けるのは『や・め・て・く・だ・さ・い』ね♪』



えーん・・・

ハンドくんがイジメるー。



『・・・では安全が確保出来ないので『冒険旅行は強制終了打ち切り』にしましょうか?』



それはヤダー!



『では『どうします』か?』



・・・『少年の姿』でガマンするー。



ハンドくんは、渋々納得するさくらの頭を撫でる。

そして『聞き分けのいい『良い子にはごほうび』ですよ』とプリンを出してもらったさくらは、笑顔で食べてから少年の姿で出掛けるのだった。



もちろん『無人島』などの『安全な場所』では『もとの姿』でも『少女の姿』でも、ハンドくんは文句を言わなかった。




さくらは少年の姿で露店巡りを楽しんでいた。

ハンドくんから『銅貨』をたくさん貰っているので『使い放題』なのだが、露店では『買い食い』をする気も『買い漁り』する気にもならなかった。


部屋に帰れば『美味しいおやつ』が待ってるし、宿の料理も美味しかった。

それに『今すぐ食べられる物』より、野菜や果実などの『生鮮食料品』や麻などの『反物』の方が多く売られていた。

王都に近くなるほど『買い食い出来る露店』が増えていくらしい。

それでも『露店街が持つ独特の雰囲気』に触れているだけで楽しかったのだ。




だから全然気付かなかった。

背後から近寄る不穏な空気に・・・





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