第146話



「さくら様。久しぶりに『ここの探検』をされませんか?」


『聖なる乙女のお披露目』から4日後。

パーティーの翌日から出していた熱は昨日には下がっていた。

それでも『過保護』な保護者たちから『数日は大人しくするように』と部屋から一歩も出してもらえないでいた。

そんな時にジタンの来訪を受けたのだ。

畳の上に『木のパズル』を広げて図柄を作って遊んでいたさくらは「探検?みんなも一緒?」と首を傾げる。

以前は『闖入者ちんにゅうしゃ』のせいで『探検』の中断を余儀なくされたのだ。


「なんだー?さくら。まだ『この中のこと』を知らないんか?」


ヨルクに笑われて「だってぇー。温室とか行ったことはあるけど他の場所は『人がいっぱい』だもん」と不貞腐ふてくされる。

そんなさくらの頭を撫でて「みんなで行くか?」とセルヴァンが聞くと「行く!」と笑顔になった。


『ちゃんとお片付けしてからですよ』


ハンドくんにケースを出されて木のパズルを入れていく。


「あれ?『ピース』が足りない」


ケースの絵柄にあわせてピースを入れていたが、ケースの中には空白が出来ていた。

さくらが周りを見回すが見つからない。

ケースを持ち上げて下を探すが、そんなところにあるはずがない。

だいたい、ハンドくんがケースをピースの上に置くはずがない。


するとハンドくんがピースを見つけて持ってきてくれた。

何かの拍子に掘りごたつに掛けてある布団の中へ入ってしまったようだ。


「ちゃんと片付けしなかったら『無くした』ことに気付かなかったな」


ヨルクに笑われたけど『事実』だから仕方がない。

ぷくっと頬を膨らませたさくらの代わりに、ハンドくんがケースを『さくらの部屋』へ持っていく。



ハンドくんがジタンへの対応が軟化したのは、『さくらの魔石』を買い取るようになったからだ。

ただ、そのお金はハンドくんが管理している。

さくらに全額渡すとネットショップで何を買い出すか分からないからだ。

その代わり、タブレットで『買いたいもの』をチェックして、ハンドくんが『買ってもいい』と認めたものはその都度ハンドくんがお金を『チャージ』してくれて購入している。

ハンドくんは『買うこと』には反対しない。

ただ、さくらの場合は『目についた欲しいもの』を手当り次第に購入しようとするのだ。


『1個だけです』


「やー。せめて2個!」


『ダメです。『無くなってから』また買えばいいだけです』


「ケチー!」


『それでしたら『注文をキャンセル』しましょうか?』


「ダメ〜!」


『じゃあ1個でガマンしますか?』


「・・・・・・するぅ」


そんなやり取りが毎回繰り返されている。

それでもさくらは懲りずに何度も『多め』に購入しようとしてはハンドくんに止められているのだ。

実はさくらが本当に気に入った商品は、ハンドくんがこっそり購入して専用のアイテムボックスに保管してるのは、さくらには内緒だ。



そして、購入するとすぐにダンボールに入った状態で目の前に届けられる。

そしてタブレットに『受け取り』の画面が開く。

そこをタップすると『お買上げありがとう御座いました』と表示される。

はじめはそのことに驚いていた皆も、今では慣れてしまった。




ジタンも部屋への出入りをハンドくんに許されるようになって『さくらの部屋』に招かれるようになった。

はじめの頃はヨルク同様、様々な道具に驚いていた。

今ではネットショップの仕組みを教わり、種苗をいくつか購入して『この世界でも育てることが可能か』という研究を始めた。

その一部は『屋上庭園』にもある。

『瘴気が植物にどう影響するか』ということで、瘴気がなく清浄化されている屋上庭園でどのような影響があるのかを研究中なのだ。


・・・今のところ、さくらの世界から購入した植物は瘴気の影響を受けていない。


それどころか、瘴気が薄まったところもあるのだ。

以前、さくらがこの世界の説明を受けた時に、瘴気は聖なる乙女の呼吸で浄化されると聞いて『私らは光合成をする樹木か?』とツッコミを入れていたが、もしかするとそれは正しかったかも知れない。


この研究で植物が『瘴気の浄化』が出来ると分かれば、『聖なる乙女』を連れてくる頻度も少なくなるだろう。

しかしまだ、研究は始まったばかりだ。

実際にそうなるとは限らない。

それでも聖なる乙女の負担が軽くなればいい。


ジタンは本気でそう願っているのだった。



「じゃあ行こうかね」


「うん!」


ドリトスに促されてさくらは立ち上がる。

するとハンドくんたちが、さくらのコートと耳あてと共に、さくらが編んでいた『毛糸の帽子とマフラーとミトン』を持ってきた。

冬に入ったばかりでも王城内は温度設定がされていて中ではコートは不要だ。

もちろん毛糸の帽子とマフラー、ミトンはいらない。

きょとんとするさくらのメニューから『服装』を開いて登録する。


『これでいつでも使えますよ』


「ありがとう!」


「良かったわね。さくら」


「少しでも寒かったらすぐに出すんだぞ」


「ハンドくんも。『さくらに着せたほうが良い』と思ったらすぐに出してもらえるかね?」


『はい。分かりました』


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