第147話
ドリトスもセルヴァンも『毛皮』で寒さに強い。
ヨルクやヒナリは『風に乗る』ため、元々温度が気にならない。
何よりこの世界では、人族以外は『変温動物』なのだ。
多少の暑さ寒さを感じて防寒具を着用することはあるが、人族みたいに『着込む』ことはないのだ。
そしてさくらは気付いていなかった。
ヨルクが『結界内でハリセンを受けて座卓に突っ伏している』ことを。
ヨルクも『王城探検中に『呪い』を受けた』ことを知っていたハズだ。
それなのに、さくらに思い出させるようなことを言ったことがハンドくんの逆鱗に触れたのだ。
そのことに気付いていたドリトスとセルヴァンは、その後に起きるであろう『ハンドくんの制裁』にさくらが気付かないようにしていた。
ちなみにヒナリは『そのこと』に気付いていなかった。
少しでも『さくらのこと』を知りたいヒナリは、ハンドくんが何をしていたのか興味津々だったのだ。
そのため、ヨルクの様子を見ていたのは『さくらと向かい合う』位置に立っていたジタンだけだった。
しかしさくらの後ろに立つセルヴァンに首を横に振られたため『見なかったこと』にした。
「さあ。そろそろ『行ける』かね?」
ドリトスの言葉が聞こえたのか、座卓に伏せていたヨルクは何事もなかったかのように立ち上がってセルヴァンの後ろへと近付いて来た。
どうやらドリトスの言葉はヨルクに向けて言われた言葉だったようだ。
さくらは楽しそうに足早で部屋から出る。
部屋を出る前に中へ向かって「行ってきまーす」と声をかけるのを忘れずに。
「ヨルク。大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねぇよ。・・・けどな。さくらが『あの時』を思い出すかも知れないことを言ったのはオレだからな。『さくらを守る』立場のオレが『さくらをキズつける』ことは、何があっても許されないんだよ」
当時はまだいなかったヨルクだが、セルヴァンたちから話は聞いて知っていた。
それなのに口を滑らせたのはヨルク自身だ。
だから『治癒魔法』を使って回復しないのだ。
この痛みは『バツ』なのだから。
何より、さくらが思い出して
ヨルクたちの会話を、前を歩くセルヴァンとドリトスは耳にしていた。
「ヨルクは『変わった』ようじゃな」
「ええ。『良い方』へ」
小声で会話する2人の前を行くさくらとヒナリが、階段前で振り返って待っている。
「ねぇ!『結界』が張ってないよー?」
さくらが驚きの声を上げる。
結界が張られている時は、階段から下は『白いモヤの膜』で何も見えないのだ。
いま階段の下は普通に見えている。
『白いモヤ』で見えなくなっているのが当たり前になっていたさくらにとって、階段の下が見える方が不思議で仕方がない。
ちなみにさくらに『結界』は効かない。
何か『見えない薄い膜』を通り抜けた感覚があるだけだ。
そして『鍵をかけた扉』も役に立たない。
さくらがドアノブを握っただけで、勝手に鍵が開いてしまうのだ。
もし開かなくても、ハンドくんが『中から』開けるだけだが。
「いま、この中にいるのは此処にいる私たちだけです」
ジタンの言葉に驚いたさくらはしゃがんで階段の下を覗く。
その表情は『好奇心』より『不安』の方が大きいようだ。
ハンドくんとコッソリ抜け出すさくらだったが、それはハンドくんたちだけでなく『親衛隊』たちからも『守られている』ことが分かっているからだ。
その様子に気付いたドリトスがさくらを抱き上げる。
「今日の『探検』は此処までにして止めとくかね?」
ドリトスに聞かれて少し考えていたが「みんな一緒だから行く」とドリトスの首に腕を回す。
それでも怖いのだろう。
さくらの身体が小さく震えていた。
ドリトスはそれに気付かないフリをして、ゆっくり階段をおりていく。
階段下のホールに
ドリトスの腕の中で周囲を見回す。
鑑定魔法にも反応がない。
部屋の中で『息を
本当に『誰もいない』のだ。
そのことに気付き、急にさくらは『恐怖』に襲われて身体をぶるりと震わす。
するとポンッとハンドくんが現れてさくらの頭を撫でる。
たったそれだけで、さくらは落ち着いたのか固まっていた表情がすぐに笑顔になる。
さくらが十分落ち着いてから、ハンドくんがホワイトボードをさくらに見せた。
『外では雪が降っています。少し寒く感じましたか?』
「ゆき〜!」
同じくホワイトボードを読んでいたドリトスが、目を輝かせているさくらを抱きかかえたまま窓に近寄る。
元の世界と同じく、真っ白な雪が灰色の空から降り注いでいる。
そして周囲はうっすらと『雪景色』だ。
雪があまり降らない地域から来たさくらは、雪景色に興奮している。
「わあ〜!」
『雪に瘴気は一切混じっていませんよ』
「じゃあ『触って』も大丈夫なの?」
『大丈夫です』
「あとで
「うん!」
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