第135話



時は戻って前日。

乙女の披露が終わった翌日の早朝。

最上階に唯一続く中央階段では騒動が起きていた。

さくらの部屋へ向かおうとする賓客たちとそれを食い止める『さくらの親衛隊』たちが揉めていたのだ。

賓客たちは「さくら様がお出ましになられないなら自分たちからご挨拶に」という傍迷惑で浅ましい考えを持っていた。


もちろん親衛隊は「こんな早朝から失礼だ!」と引き下がらず。

たとえ親衛隊を押し退けても、最上階には結界が張られていて誰も上がることが出来ない。


それでも『腕に自信』を持っている自意識過剰な数人が「結界を壊す」と鼻息が荒い。

昨日の『天花(てんか)』の際にシルエットとはいえさくらの姿(の一部)を見る事が出来た者たちが『さくらを神格化』させて自慢していたのだ。

そんな連中に「自分たちは『さくら様』と直接お会いした」と張り合いたい。周囲に自慢したい。

ただそれだけなのだ。




集まっている者の中にはセルヴァンの子供たちやドリトスの関係者、そしてヒナリの弟とその比翼もいる。


「皆さん!ここでいったい何を!」


騒ぎを聞いたジタンが慌てて駆けつけてきた。


「今すぐ結界から離れてください!」


ジタンの登場で「このチャンスを逃してたまるか!」と一部の男たちが親衛隊と揉み合っている間に結界へと駆け寄った者たちがいた。

彼らは結界に手をかけて無理にでもじ開けようとしたのだ。

しかしそれは突然現れたハンドくんたちのハリセンが唸りをあげて、踊り場から階段の下へ虫のごとく叩き落とした。


同時に窓からヒナリとヨルクが飛び込んできた。



「お前ら!何してるんだ!」


ヨルクは一瞬で『何が起きていたのか』を正確に把握した。

ヨルクの怒りがヒナリの弟たちに向かう。


「ロント!シリア!お前ら『神の結界』に手を出して許されると思ってるのか!」


「いや・・・おれ達は何もしてない!」


「だったらなんで此処にいるのよ!」


「だって・・なあ」


ヒナリの怒りにロントは比翼のシリアに顔を向ける。

それに頷いたシリアが「本当だったら私達が『さくら様とお近付き』になれていたんですよ!」と騒ぎ出す。

彼女たちの頭の中では「私達が先に『さくら様』と会っていたら私達が『選ばれていた』はずだ!」ということらしい。

その内容にヨルクは呆れてものが言えなかった。





「私たちは『さくら様』がこの世界に来て3ヶ月も経ってからここへ来たのよ。ロントもシリアも。その3ヶ月間一体どこで何をしていたの?」


私たちより先に会うことはいくらでも出来ていたはずでしょ?

そうヒナリに言われてゴニョゴニョというだけで何も言葉にして言い返せない2人。

ヨルクの放った『神の結界』という言葉に、結界を破ろうとしていた周囲の大人たちは青くなっている。


「シルバラートたちも一緒になって何してるんだよ。・・・こんなことセルヴァンが知ったらタダじゃ済まないぞ!」


セルヴァンの5人の子どもたちはヨルクの言葉に青褪めて周囲を見回す。


「セルヴァンなら来てねーよ。・・・『さくら様』が熱を出してるからドリトス様と一緒にそばについてる」


「さくら様は!」


「さくら様はご無事なのか!」


ヨルクの言葉を耳にしてさくらを心配した大人たちが口々に騒ぐ。



その中で「自分がわざわざ時間をいて来てやったんだから早く会わせろ!」と言い出した男がいた。

騒ぎの間でも偉そうに周りを見下していた恰幅の良い男にヨルクはカチンときていた。



「『さくら様』に無理をさせれば更に寝込む」


「そんなこと『どうでもいい』。おい。そこのお前。さっさと『さくら様』とやらを此処に連れて来い!」



男は偉そうにヒナリを指さして命令する。

そういった瞬間、ハンドくんたちが何十発もその男に『ハリセン攻撃』を・・・『ハリセンで袋叩き』を放った。

男や取り巻きたちが魔法で抵抗しようとしたが、ハンドくんたちが繰り出す『集中砲火』のハリセンが魔法の詠唱を妨げる。

その様子はハンドくんにしては『異常』な光景だった。




白手袋をしているハンドくんからホワイトボードを見せられたジタンは瞬く間に真っ青になった。


「兵士の皆さん!その男を捕らえなさい!邪魔をするならその者たちも一緒に!」


ジタンの言葉にジタンの後ろに控えていた兵士たちが素早く男と妨害した者たちを引っ捕らえていく。

彼らは賓客として招かれているはずだが、ジタンは投獄を命じた。


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