第134話




「さくらが無理する必要はない」


セルヴァンに頭を撫でられる。


「今もまだ『本調子』ではないじゃろう?」


・・・ドリトスにはバレているんだ。


「無理するなら寝室に閉じ込めるからね!」


・・・どうやってヒナリから逃げようかな。



「さくらは神たちに『この世界を浄化しろ』と言われたか?」


ヨルクの言葉に首を左右に振る。


「だったら『やらなくていい』」


「・・・でも・・・みんな『困ってる』よね?」


「だからと言ってさくら1人が負う必要はない!」



ヨルクに強く断言されてさくらは俯く。

いつも優しいヨルクに叱られたと思ったさくらは涙を浮かべている。

そんなさくらの頭を撫でながらドリトスが笑う。


「ホレ。みんなはさくらが心配なんじゃよ」


さくらが心配だ。

しかしさくら自身は自分を顧みず『みんなのため』に無茶をしようとする。



「さくら。明後日にでもジタンに『相談』してみるかね?」


ジタンは明日以降もまだ賓客の相手で忙しい。

それでも『さくらのため』なら時間を作るだろう。


それにジタンはさくらに浄化を絶対させない。

そう断言出来るほどジタンはさくらを大切に思っている。


それが分かっていてもジタンから直接断られたら、さくらも納得するだろう。



ドリトスの提案にさくらは頷いたのだった。







「さくら様。有り難いお申し出でございますが・・・」


パーティーが開かれてから2日後。


さくらが「私も『瘴気の浄化』をした方がいい?」とジタンに聞いたのだ。

ハッキリと断られたさくらが「なんでー?」と尋ねると「さくら様の御身おんみに負担が掛かり過ぎます」と言われた。


さくらはパーティーの翌朝から熱を出していた。

ジタンは翌朝にヨルクから、さくらが熱を出してせっていることを聞かされたのだ。

そしてさくらが『瘴気の浄化』のことで悩んでいることを知った。

それが熱を出す原因になったことも。



ジタンは床に片膝をついてベッドに上半身を起こしているさくらの左手をうやうやしく取る。


「さくら様。さくら様は『今のまま』で良いのです」


「今のまま?」


「はい。さくら様は『瘴気の浄化』以外のこと・・・市井のことを見て頂きたいのです」


ジタンはまもなく譲位を受けて『国王』となる。

皇太子時代のように『目の届く範囲』だけを見ていることは出来ない。


「ですから、さくら様には『私に届かない民の声』を聞いて頂きたいのです」


「『瘴気の浄化』は?」


「そちらは『聖なる乙女』がおられます。ですが『魔物が助けを求めてきた』時はさくら様にお願いする事もあるでしょう」


その時に今みたいに寝込んでいたら魔物たちを助けられませんよ。

ジタンの言葉にコクンと頷くさくら。


『そろそろ横になって下さい。熱が上がりますよ』


ハンドくんに止められてさくらは身体を倒す。


「ねえ。ジタン」


「はい。何でしょう?」


「・・・また『おこづかい』くれる?」


さくらの言葉にジタンは笑顔で「もちろんですよ」と頷く。

ジタンの言葉に微笑んださくらが目を閉じる。

安心したのだろう。

すぐに寝息が聞こえてきた。


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