第131話



あの、風を切る『独特の音』が周囲に響いた。

光の線が空に向かっていき、色鮮いろあざやかな『大輪の花』を咲かせる。


「・・・花火?」


「この世界にもあるの?」


でも周りの様子から、この世界の人たちは花火の存在を知らないようだ。

乙女たちは顔を見合わせる。



「まったく!ヨルクったら!」


花火の音にまぎれて女性の声が聞こえた。

乙女たちがそちらに目を向けると、翼を広げた女性が空へと飛んで行くのが見えた。

その姿を目で追うと、同じく翼を広げた男性が浮かび上がっていた。


「あ!あの人って『さくらさんの部屋』にいた・・・」


「『ヒト』じゃなかったの?」


『彼』は大切そうに誰かを抱きかかえている。

さっきの女性は彼の前で『腕の中の誰か』に笑顔を向けていた。

姿は確認出来なかったし、腕など見える部分も屋上庭園からの逆光と花火の影響でシルエットになっているが、彼女が『さくらさん』なのだろう。


3人はしばし花火を楽しんでから、最上階へと向かっていった。

開いていた窓が閉められると金色の光に覆われて、最上階は見えなくなってしまった。

彼らを出迎えていたのは『あの時』自分たちの存在を拒絶した人たちだ。

あれほど大切に接している姿を見て、改めて自分たちがどれほど『非常識な言動をしていた』のかを思い知らされた。


そして今日の『自分たちの会』に列席してくれたことに感謝すると共に、自身は参加しないでステキな『演出』をして場を盛り上げてくれた『さくらさん』に2人の乙女は自然と頭を深く下げていた。






笛に似た音が空に向かって聞こえた直後、空に光の花がいくつも咲いた。

少し離れた場所にいる乙女たちの口から『花火』という単語が聞こえてきた。

さくらの世界にそんな言葉がある。


・・・ということは『コレ』はさくらの仕業魔法だろう。



「まったく。『花吹雪』といい『花火』といい・・・」



両腕を組み空を見上げるセルヴァンの言葉に「これはさくら様が?」「あの『ピンクの花』も?」と彼に、ある者はしがみつき、ある者は身を隠し、ある者は耳を塞いでしゃがみ込んだ状態で口々に尋ねる。

その様子はとても『鬼族長』の血を引く子供たちとは言いがたい。


そのとき会場の端から空へ浮かび上がるヒナリの姿が見えた。

その先にはヨルクがいる。

ヨルクがいるということは・・・


「やはりいたか」


「え?ヨルクのことですか?」


「そういえば来ていませんでしたね」


「ヨルクは『堅苦しい場』が嫌いだからなー」


子供たちにはヒナリとヨルクの姿しか見えていないのだろう。

しかし、もう1人。

腕や足がシルエットだがわずかに見えている。


「俺は戻る。お前らは周りに迷惑掛けるなよ」


「え!父上!?」


セルヴァンは足早に、王城へ戻る人影を追いかけた。









懐かしい連中と簡単な『近況報告』をしていると空に向かって音が響き、夜空に『花火』が広がった。

ドリトスは花火をさくらの『写真集』でみた事があった。


「ああ。さくらも『参加』しておるのう」


「これはさくら殿の魔法か!」


ドリトスの言葉にドワーフの仲間たちが驚く。

会場の花吹雪もさくらの魔法だったと知るとさらに驚きの声が増した。

屋上庭園近くの空にヨルクの姿を見つけた。

花火のせいかそばの屋上庭園から漏れる光のせいなのか。

シルエットになっているが、さくらも一緒のようだ。

そんな2人に近付いていくのはヒナリだろう。


・・・ヒナリはドレスを着ていたはずだが。


人々の目は王城とは反対の夜空、花火に集中しているが、早く屋上庭園に入れた方がよいだろう。


ドリトスは仲間たちにいとまを告げて王城へと戻っていった。



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