第130話




陽は既に落ち、ガーデンパーティーが行われている庭園では聖なる乙女たちを囲んで穏やかに時が流れていた。


そんな中、ヒナリも家族との再会を楽しんでいた。



「ヒナリ。ヨルクはどうした?」


エレアルの言葉にヒナリは目を伏せ黙って首を左右に振る。

それに大きな溜息を吐くエレアル。

幼くして両親を亡くしたヨルクを引き取ったエレアルだったが、ヨルクは『家族』として心を開いてはくれなかった。


・・・それは『仕方がない』ことだった。


当時暮らしていたマヌイトアはセリスロウ国の中でもコーティリーン国にほど近い丘陵地にあった。

ヨルクの家族や自分の妻ヒナリの母親、そして仲間たちの多くは、当時各地で繰り返し起きていた『マヌイトア襲撃事件』に巻き込まれてしまった。

その日は自分とヒナリは他国に『族長と次期族長』として出席していて不在だった。

連絡を受けて慌てて戻った時には、ヨルクの両親はヨルクを守るために『ガイ』を展開して消滅していた。

妻は子供たちを庇って亡くなっていた。

その子供たちも一人を残して母親のあとを追うように息を引き取っていた。

翼族は『比翼』の片翼が亡くなれば残った片翼も同時に亡くなる。

子供たちは『比翼の死』が原因だった。


『比翼の死』が唯一適応されないのは『族長夫婦』のみだ。

そのため自分は妻をうしなっても生き残ることが出来た。

当時のマヌイトアで生き残った者達をセリスロウ国の王城に招いて庇護してくれたのがセルヴァン国王だった。

そして襲撃で受けた傷が癒えた頃に王城のすぐ近くにマヌイトアを作らせてくれた。


両親を亡くしたヨルクを癒したのは、セリスロウ国の王城にある豊富な蔵書だった。

彼には兄がいたが、襲撃を受ける3年前に『比翼の死』で突然亡くしている。

だからこそヨルクの両親は我が子ヨルクを大切に育て命懸けで守ったのだ。


『知識があれば二度と辛い思いをしなくて済む』


幼いヨルクはそう信じて蔵書を読み続けていた。

時には寝食を忘れて何日も・・・

セルヴァンたちはそれを止めずヨルクの好きにさせた。

小さなヨルクが一人でも蔵書を読みに来られるよう、マヌイトアは王城近くに作られたのだ。


・・・そうして得た知識が『大切な存在さくらを呪いから救う』ことに結びついたのだった。








ヒュルルルル ~


ドーン!



突然響いた大きな音に慌てたものの、夜空に広がった光の『大輪の花』に誰もが目を奪われ言葉を失う。

何発もあがる『光の花』に心まで奪われていった。






さくらはヨルクにお姫様だっこで抱えられて、賑やかなパーティー会場の空を浮かんでいた。


「ハンドくんがね。私たちの分を厨房から『持ってきてくれる』んだって」


ヨルクは思わず心の中で『『盗って』の間違いだろ』とツッコミを入れたが口にすることはなかった。


天花てんか


さくらの言葉を待っていたかのように大きな音が響いて、濃紺の空にいくつもの『光の花』が開いていく。



「ちょっとヨルク!何やってるの!」


さくらと『天花見物』を楽しんでいたが、2人の姿に気付いたヒナリが飛んできた。

ヒナリの髪を飾っているのは、先日さくらが出会った青年がヒナリのために作った『珊瑚と真珠で出来た髪飾り』だった。

短時間で製作する羽目になった青年だったが、デザイン案は以前から出来ており、3日後にはジタンのもとへ届けられた。

あまりにも素晴らしい出来栄えに、ジタンはその場で彼のスポンサーになる約束をした。




「ヒナリ。きれい」


「ありがとー。さくら」


さくらに誉められて喜んだヒナリはさくらを抱きしめる。

「衣装がな」とボソリと呟いたヨルクにキッと睨みつけるが、今はさくらを抱えているためヨルクにキックやパンチをあてて『さくらに何か』あっては困る。


その間も次々に打ち上げられる『天花』。

それを見上げたヒナリはさくらに「これは『さくらの魔法』?」と尋ねる。


「うん。『お空に咲く花』だから『天花』って名前を付けたの」


「きれいね」


「うん!」


3人でしばらく天花見物をしていたが、ドリトスとセルヴァンの姿を屋上庭園に見つけて戻っていった。

そして今度は5人で『天花見物』をしつつ、ハンドくんたちが厨房から『貰ってきた』料理を楽しんだ。


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