第129話



セルヴァンたちは数日前から『上を下への大騒ぎ』だった。

さくらの強い勧めもあり、国賓として招かれた家族と急に会うことが決まった彼らは、その準備があったからだ。

そして当日。

ハンドくんたちに文字通り『手』を借りて大童おおわらわになっている。


そんな中で『ジャマになるから』と屋上庭園に移動したさくらを追ってきたヨルクが巨木の枝にさくらを連れていき膝だっこをして過ごしている。


「ヨルク・・・」


「ンー?」


「ヨルクは『準備』しなくて良いの?」


「オレには会いに来る『家族』がいないからな」


「『族長』さんは?」


「ただの『後見人』だ」


「会わなくて良いの?」


会える時に会ってた方が良いよ?と言いながら寂しそうな瞳で見上げるさくらを抱きしめて頭を撫でる。

さくらはどんなに望んでも、家族や親しい人たちに二度と会うことは出来ない。


・・・オレと『同じ』だ。



族長エレアルは『ヒナリの家族』だ。オレの家族じゃない」


オレの言葉にさくらは俯く。

そしてオレを抱きしめて「私たちがヨルクの『家族』だよ」と小さく震えた声で言う。


「家族?」


「うん」


「さくらは『オレの家族』か?」


「うん」


「オレたちは『さくらの家族』か?」


「うん」



さくらを強く抱きしめる。

たぶんオレの顔はヒナリが呆れるほどニヤケているだろう。

そしてそれと同じくらいに『泣きそうな顔』をしているだろう。




・・・そんな『みっともない』顔をさくらに見せたくなかった。






「今頃ヒナリたちは『聖なる乙女のお披露目会』に出てるのかな〜?」


さくらがヨルクに膝だっこをされながら呟く。

そんなさくらを抱きしめて「たぶんな」とヨルクが言うと「やりたいことあるんだけど、イイ?」と見上げてくる。


「何をしたいんだ?」


「えーっとぉ」




大樹の枝から地上に降りたさくらは『風の女神エアリィ』にココロで呼びかける。

そして「この世界には『お花の神様』はいるの?」と尋ねると「えぇ。いるわよ」と返事をもらって笑顔になる。

「2人に『お願い』があるの」とお願いすると「呼んでくるからちょっと待ってて」とエアリィが花の女神を呼びに行った。


ヨルクはそんなさくらを芝生の上で膝だっこをして見ていた。

さくらの様子から『神と会話中』だというのは分かった。



風の女神と花の女神がさくらに呼ばれて揃って姿を現す。


「あのね。手伝ってほしいことがあるの」




さくら曰く『聖なる乙女の『見世物みせもの』会』には各国の代表など関係者がたくさん会場入りしていた。

その中にはドリトスやセルヴァン、ヒナリの姿もある。



「さくら様はおいでにならないのか?」


「さくら様にひと目お会いしたい」


「さくら様と『お近づき』になって自分も『神の加護』をたまわりたい」


そんな会話を耳にした3人は途端に不快になる。


・・・やはり、さくらを『お披露目』させなくてよかった。


さくらを好奇の目に晒すくらいなら、徹底的に隠した方がいい。

以前さくらの精神が王城を彷徨さまよったときは『さくらの魔石』が発動していた。

そしてその時はさくらの姿が他者さくら信者には見えていなかった。

だったらさくらを『さくらの魔石』で守ることが出来るのではないだろうか。

神々やハンドくんを交えて相談してみようと思う。


3人は『聖なる乙女たち』が紹介を受け挨拶しているにもかかわらず、私欲剥き出しの言葉を挨拶代わりにしている国賓らに表情は変えずに心の中で呆れていた。




しかし乙女たちへの冷たい態度もまた仕方がないのかもしれない。

乙女たちの『さくらへの固執』が国内外の『さくら親衛隊』に広まっていたからだ。

乙女たちも今では自分たちの言動が異常だったことを認め、この『公式の場』でも反省と謝罪を口にしている。



そんな乙女たちが挨拶を終えた時だった。

突然天井近くからピンク色の花が会場内に降り注いできた。

まるで乙女たちを『祝福』するように。



「え・・・?サクラ?」


「でも。この世界には『ない』って・・・」


乙女たちから驚きの声があがる。

ヒナリが『おちょこ』に開いた手に降ってきた花は『この世界に存在しない』・・・『ソメイヨシノ』だった。




賓客の中には『青色の桜』を手にした者もいたが、それもすぐに『ピンク色の桜』に姿を変えていった。

床に落ちた桜がふわりと宙に浮かび、呼応するように賓客が手にした桜も浮かび上がって天井近くに溜まっていく。

すると柔らかな白色の光の粒子となり会場内にキラキラとふたたび降り注いで消えていった。



その後の賓客たちの態度はガラリと一変した。

さっきまで乙女たちに白い目を向けていた賓客の表情は優しく、乙女たちに礼儀正しく挨拶する者さえ現れていた。

その態度の急変に乙女たちは困惑しつつも笑顔を欠かさなかった。





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