第132話



途中で追いついてきたセルヴァンにヒナリのことを教えると言葉無く大きく息を吐き出し呆れていた。

屋上庭園に着いてすぐに窓を開けると、真っ先にさくらがドリトスたちに気が付いた。

そして3人で屋上庭園に戻ってくる。

「おかえりなさーい」と嬉しそうに両手を伸ばすさくらを穏やかな笑顔でセルヴァンがヨルクから預かり、ドリトスが周囲を確認してから窓を閉める。




明るい場所に来て、ようやくヨルクがヒナリのドレス姿に気付いたようだ。


「ヒナリ。お前・・・その姿で空を飛んでたのかよ」


「え?・・・キャア!」



ヒナリもドレス姿だったことを思い出したようだ。

顔を真っ赤にしてヨルクをポカポカとグーで殴る。


「大丈夫だよー。ハンドくんが飛んできたヒナリに気付いて魔法で『ドレスの中』が見えないようにしてくれたから」


さくらが言うにはハンドくんがヒナリのドレスに『不可視見ちゃダメ』の魔法をかけて下から見えないようにしてくれたそうだ。

「ありがとー!」と喜ぶヒナリに『グッドサイン』を見せるハンドくん。

そして「なんで気付いてくれなかったのよ!」とまたポカポカとヨルクを叩く。


「だって〜。ヨルクって私がヒナリを『キレイ』って誉めたら『衣装が』って言ってたもんね~」


楽しそうに『爆弾を投下』するさくら。

「あー!そうよ!」と思い出してまたポカポカと叩くヒナリ。

クスクス笑うさくらは「ヨルクってドレス姿のヒナリを見て顔を真っ赤にしてたんだよね~」と次の爆弾を投下。

「あ!バカ!言うなって!」とさくらの放った爆弾が直撃したヨルクはさらなる被弾を避けるために慌ててさくらの口を塞ごうとする。

さくらの言葉に否定はしないようだ。

ヒナリは顔を真っ赤にして腕を振り上げたまま動きが止まっている。



ヨルクの手を逃れたさくらは「やーん。ハンドくーん!助けて〜!」と屋上庭園を駆け回る。

その後ろを「さくら!待て!」と言いながらヨルクが飛んで追い掛ける。


アニメで有名な『茶色のネズミを全速力で追いかけるブルーグレー色のネコ』と『さくらを飛んで追いかけるヨルク』は、キケンに気付いても急には止まれない。


さくらの後ろ、追いかけるヨルクの目の前に突然現れたハンドくんに気付いたヨルク。

止まろうとしたが『慣性の法則』で止まれなかったヨルクは『フルスイング・ハリセン攻撃』を真正面から受けた。


・・・そう。

まるで豪速球が最初から『決められたルート』を進むのを知っていて待っていたバットの芯に当たってスタンドに入るように、止まれなかったヨルクは顔面からハンドくんが振りかぶったハリセン攻撃を受けたのだった。


『飛んで火に入る夏のヨルク』状態だ。


そして『来た道』を戻るように吹っ飛ばされたヨルクは、プラスチック製の『ハエたたき』で叩き落とされた・・・




ドリトスにしがみついてそれを見ていたさくら。

「えーん。さっきヨルクが『バカ!』って言ったよー」とドリトスに訴えると今度はセルヴァンの爆弾ゲンコツとハンドくんたちの連射ハリセンがヨルクの頭に直撃クリーンヒットした。






ハンドくんが厨房から貰ってきた料理をウッドテーブルに並べてくれた。

もちろんハンドくんの料理も一緒だ。

厨房には事前に『さくら様が召し上がる可能性もある』という連絡がジタンから届いていた。

料理人の中にも、というより全員が『さくら信者』だった。

そのため料理人たちはいつも以上に腕を振るい『料理が無くなる』と『さくら様のもとへ届いた』と喜んでいた。

決してヨルクの言葉のような『盗ってきた』ということではない。


何よりキレイに洗われたお皿とともに【ごちそうさまでした】などのメッセージが書かれたさくらお手製の『押し花カード』も人数分置かれていた。


そのカードは厨房で働いている全員が等分に分け合って『家宝』にしたのは後日談である。




5人は食べながら『天花見物』を楽しんでいた。

色とりどりの『天花』は形を変えて夜空を飾っている。


「さくら。会場の『花吹雪』もさくらだろう?」


セルヴァンに聞かれて「ウン」と頷くさくら。

あの花には『浄化作用』があり、瘴気の浄化が必要な人が花に触れると『青色』に反応するらしい。

そして『浄化が完了』するとピンク色になる。

最後に『光の粒子』で会場に降り注いだのは、『会場内の浄化』のためだった。


それで賓客の『乙女に対する態度』が急に変わった理由に納得出来た。


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