第127話




セルヴァンのゲンコツでようやく自分を取り戻して冷静になったヒナリ。

そのまま正座してセルヴァンから説教を受けて『何が悪かった』のかを反省させられている。

ヨルクは周りを確認してドリトスの不在に気付き、セルヴァンが強硬手段に出た理由を理解した。


「なあ。ヒナリ。ヒナリはさ。さくらを『縛り付けたい』のか?」


ヨルクがヒナリの前にしゃがむ。

ヒナリは憔悴しきった表情でうつむいたまま首を左右に振る。


「ヒナリ。さくらはこの国に来てからこの王城以外何処にも行ったことがない。そんなさくらが動けるまで回復して『外へ遊びに行きたい』と思うのは悪いことか?」


セルヴァンの言葉にも黙って首を左右に振るだけ。

冷静さを取り戻してきたヒナリにもようやく分かってきたのだ。

自分が小さい頃から周りの大人たちにされてきた『制限』をさくらにいていたことに。


・・・さくらの涙に濡れた目が脳裏から離れない。


『大切にしたい』『守りたい』と思っている存在さくらを私自身が傷つけてしまった。

傷ついたさくらの表情が・・・忘れられない。


「ごめんなさい」


傷ついたさくらの顔を思い出すたびに口にする謝罪。

でもその言葉は『さくら本人』には届かない。


「ごめんなさい」


自分を見つめるさくらの悲しげな目が忘れられない。


「ごめんなさい」


何度謝っても『さくらの笑顔』を思い出せない。

思い出そうとしてるのに頭をよぎるのは傷ついた表情のさくら。


「ごめんなさい」



繰り返されるヒナリの謝罪。

向けられる相手は此処にはいない。



「ヒナリ。その『謝罪』は一体誰のためのものだ?」


『鬼族長』の頃に何度も聞いたセルヴァンの冷たい声音。

言葉を向けられていないヨルクでさえ、身体の底から冷えて全身が震えた。

それでも怒気を含んでいないから一過性なものだろう。



「お前がさっきから繰り返す謝罪は『自分がゆるされてラクになりたい』ためのものじゃないのか」


セルヴァンの言葉にヒナリは口を閉ざす。

確かに『さくらの笑顔を思い出したい』ために謝っていたのだから。

セルヴァンにはそんなヒナリの『浅ましい考え』すら見破られていたのだ。



「なあ、ヒナリ。『さくらが泣くほど傷ついた』のに何故ハンドくんたちがハリセンで叩かないのか不思議に思わなかったのか?」


ヨルクの言葉にヒナリは驚きの表情で勢いよく顔を上げた。

そうだ。さくらを傷つけてしまったのに何故私はハリセンを受けていないのだろうか。


「ヒナリ」とセルヴァンに呼びかけられてヒナリは青褪めた顔を向ける。


「いつもハンドくんたちに『ハリセン攻撃』をされた時はどう思っている?」


「・・・すぐに自分が悪いことをしたって。何が悪かったのかすぐに考えて反省できます」


「では『いま』はどうだ?」


そう言われたヒナリは俯き「『バツ』を受けていない・・・です」と呟いた。

そう。ヒナリは『ハリセン攻撃』を含めたバツを受けていない。

そして『許しを乞う相手さくら』が目の前にいない。

だからこそずっと嘆き苦しみ続けることになったのだ。


実はこれもハンドくんからの『バツ』なのだ。

ヒナリに反省を促し二度と繰り返させないための。



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