第126話


「ドリトス様たちは如何いかがなされますか?」


「ワシらは誰も出ぬぞ」


「ですが・・・『国賓』としてご招待しています」


ジタンはさくらの前なので敢えて『国賓として『家族や身内』を招待している』と言っていない。

しかし、さくらは『隠された言葉』に気がついた。


「会える時に会ってないと・・・会えなくなったら・・・絶対、に、『後悔』・・・する、よ・・・」


さくらの言葉が詰まる。

首に回された腕が震えている。

ドリトスは無言でさくらの背を擦り続けていた。

家族がいる自分が何を言っても、さくらの『慰め』にはならないからだ。


「少し時間をもらえるかね?そのことはセルヴァンたちとも話す必要があるじゃろう」


ドリトスはその場での返答を避けた。

さくらの『想い』と、みんなの『考え』をあわせて話し合い、今日中に返事をすることにしたのだ。





温室に向かうためにハンドくんが廊下や温室の周辺に『結界』と『人避け』の魔法を張ってくれた。

その中をさくらはドリトスに抱かれて移動している。

姿は少年のままだ。

結界内だから誰かに見られる可能性は少ないが、『もしも』の可能性が乙女たちにはある。

ヨルクがさくらを心配して『神の結界を無効化した』実績もあるのだ。

『心配』と『執着』は『紙一重』だ。


・・・今のヒナリのように。




温室に着くと、さくらは『元の姿』に戻った。

それでもドリトスの首に抱きついたまま離れようとしない。

「さくら」と呼びかけると離されると勘違いしたのかさらにしがみつく。

そんな様子にドリトスは苦笑する。


「ハンドくんが『何か飲みますか?』と聞いておるぞ」と伝えると「甘いのがいい」と答える。


そんなさくらの腰にハンドくんたちが『翼族の羽衣』を巻いている。

此処も屋上庭園にもさくらが日射病で倒れてから『日差し避け』の魔法が張られている。

それでもハンドくんたちは『完全ではない』としてさくらの腰に羽衣を巻いているのだ。


では『今朝』はどうだったのか。


ハンドくんの話だと『神が雲でさえぎった』らしい。

確かに『翼族の羽衣』を人族は使わない。

翼族にとって『翼族の羽衣』は親から贈られる大切なものだからだ。

そんな羽衣をさくらが身に着けて町に出ていたら『羽根をしまった翼族』か『翼族から羽衣を盗んだ』と間違えられて最悪捕まる可能性すらある。


・・・その前にハンドくんたちが『大暴れ』するだろうが。


そちらの方が大事おおごとになってしまうがハンドくんたちは『さくらを守るため』なら手加減はしない。

それを防ぐために神々は『曇り空』にしたのだろう。



さて・・・

「さくら」と呼びかけるとふたたびしがみつく。


「ハンドくんが『アイスの乗ったジュース』を持ってきてくれたんじゃが。飲まないのかね?」


そう聞くと「のむー」と返事をするが腕を外そうとしない。


「大丈夫じゃよ。ワシらは何処にも行かぬから」


さくらの頭を撫でると少しして「ウン」と返事が聞こえて首から腕を離す。

膝だっこの状態でジュースに両手を伸ばしたさくらだったが、すぐに手を引っ込めてドリトスにしがみつく。

そして「ただいま」と呟く。

ドリトスはそんなさくらを抱きしめて「おかえり。さくら」と笑顔で返した。


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