第99話



さくらは思念でメニュー画面を起動して『さくらの魔石』を『貴重品』から座卓に10個取り出した。

それをハンドくんがジタンから預かって来たという麻袋にポンポンと無造作に入れていく。


貴重品で高価なはずの『さくらの魔石』をさくらとハンドくんはまるで『河原の石』のように扱う。

2人の雑な扱い方に魔石の価値を知るドリトスは苦笑するしかなかった。

たぶんジタンは理由を聞かされずに麻袋を渡したのだろう。

まさかその中に『さくらの魔石』を入れてくるとも知らずに。


『ハンドくん。お願いね〜』


さくらに見送られてハンドくんはポンッと姿を消した。

それと入れ違うようにアリスティアラが姿を現した。

ドリトスとヒナリの表情から何かあったことに気付いたようだ。


「・・・またなんの『ワルさ』をしていたんですか?」


『ハンドくんと一緒に『魔石の押し売り』ごっこ』


さくらの言葉にアリスティアラは顔を引きつらせる。


『大丈夫だよ。ハンドくんが『まずは10個』って言ったから10個だけ渡したよ』


「『まずは』ですか?」


『うん。『国が潰れなかったらまた追加で売りつけましょう』って・・・どうかしたの?』


「いえ。何でもありません」と言うアリスティアラの表情は強ばっていた。




アリスティアラが姿を現したのは、部屋の準備が整ったのを伝えるためだったらしい。

アリスティアラが寝室側の壁に手をあてると木製の扉が出現した。

ドリトスがさくらを抱き上げて扉に近付く。

その後ろをヒナリが続く。

ハンドくんが扉を押すと、2メートル先に引き戸が現れた。


『アレ?』


くぐった扉は『物置の扉』だった。

さくらはキョロキョロと周りを見回す。

この部屋はちょうどさくらの部屋と間取りが反対だった。


もしかして・・・隣の部屋?とアリスティアラに確認すると『そうですよ』とチャットで返事が届いた。

それにしては『広い』んだけど?

台所がシステムキッチン化してるし。

天井もけっこう高いから一番背の高いセルヴァンでも頭をぶつけないよね。



『キッチンを含めたリフォームの代金はハンドくんが『国王代理から支援ジタンを脅して』貰ったそうですよ』


・・・・・・何か『別の言葉』が含まれていたような気がするんだけど。


『気のせいでしょう』


・・・そういう事にしておきましょう。




『部屋の中の空間も広げてあります。最初に過ごしていた部屋も元の部屋より広くしてあったんですよ。気付きませんでしたか?』


あの頃は魔法とか珍しいことが多くてそんな所まで気にしていなかったわ。と伝えたらクスクスと笑われた。

それとこの部屋の空気って・・・『元の世界』の空気を『清浄化』したの?


『よく気付きましたね』


うん。

なんとなく神社独特の『清々しい空気』に似てるから。

此処ならみんなで過ごしていても『マンションに帰って回復させる』のとおんなじなんだよね?


『そうですよ。さくらの体調も早く回復出来ますからね』


『でも無理や無茶はダメですからね』とクギを刺さすのを忘れないアリスティアラ。


・・・たまには『忘れてもいい』と思うよ?


『忘れたら「言われなかったもーん」とか言って、喜んで無理や無茶をするでしょ』


ありゃ。バレてーら〜。

おどける私に苦笑するアリスティアラだった。





この部屋の玄関ドアから『私の部屋へ戻る』ことは可能?


『戻れますよ。でも彼らはそのドアから出られません。『空気の浄化』をしていませんから』


まあ、私の部屋はこの隣なんだけどね。


『部屋の壁は以前より厚くなってますよ。・・・『引きこもり計画』ですか?』


何も考えずに『抱きまくらのダッちゃん』を抱きしめて、意味なくテレビをつけたままゴロゴロしたい日もあるだろうから。


『その時はハンドくんたちが助けてくれますよ』


神々みんなも助けてくれるんだよね。


そう聞いたら笑ってた。


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