第89話



どれくらい経ったか。

身体を襲っていた痛みが弱まってきた。


「大丈夫か?」


声と共に汗で濡れた額に手が乗せられた。

コクンと頷くと「よく頑張ったな」と頭を撫でられた。

「声はまだ出さないで下さいね」とアリスティアラには注意を受けた。


・・・治ってないの?


「そうではなくて。少しずつ練習しないと、ノドを痛めて二度と喋る事が出来なくなりますよ」


それは困る!

この後に『冒険旅行』が待ってるんだから。


「じゃあ大人しくするんだな。彼らは『クチパク』でも話が通じてるだろ」


ハンドくんという『通訳』もいますから。


創造神が清浄クリーン魔法をかけてくれた。

『ありがとー』とお礼を言った所までは覚えているけど、疲れからか急激に眠気が襲ってきてそのまま目を閉じた。






痛みからの『解放』で精神的な疲れが限界だったんだろう。

清浄クリーン魔法をかけたらお礼を言っていたが、そのまま眠ってしまったようだ。


「創造神様・・・」


床に座ってさくらの手を握っている水の女神が心配そうに見上げてくる。


「大丈夫よ。さくらは疲れて眠っただけですから」


アリスティアラが代わりに答えると安心したように笑顔になった。


「あとは『彼ら』に任せよう」


「ですが・・・」


風の女神が辛そうにさくらを見る。

これから『さくらに起きる』ことを知っている彼女は『部屋マンション』に連れて帰りたいのだろう。

しかし、『彼ら』もさくらに『何が起きているか』を知らなくてはならない。


創造神の言葉に女神たちは頷くが動こうとしない。

神という『中立』な立場でありながら、『聖なる乙女』たちよりさくらを優先してしまう。

以前のようにリビングで『一緒に過ごしたい』と願ってしまう。

しかし『今』はそれが出来ない。

『火の男神』たちがしでかしたことの『後始末』と『聖なる乙女たち』のこと。

他にもまだまだ『課題』が残っているからだ。


「そばにいたければ、すべて『片付けてから』にしなさい」


創造神に促されて女神たちはさくらの手を離す。


「大丈夫よ。さくら。私たちはいつもそばで見守っているわ」


アリスティアラがさくらの頬にキスをする。

ふにゃりと笑顔になるさくらの額にもう一度キスを落としたアリスティアラを促して結界を解いて寝室から離れた。





ハンドくんから『神々が退室した』事を聞いたセルヴァンがさくらを迎えに寝室へ行く。

しかしさくらを置いたまま部屋を出てきた。


「セルヴァン様?」


心配するヒナリの頭を撫でたセルヴァンが「さくらが熱を出している」と教えてくれた。

疲れた表情だったこともあり『今は寝かせておく』事にしたそうだ。

目を覚ましたらハンドくんが教えてくれることになった。




「今のうちに『日本語の勉強』を続けるぞ」


「うへぇ・・・」


ヨルクが嫌そうな声を出してセルヴァンのゲンコツをもらった。


さくらの世界では『色々な言語』があるらしい。

さくらの『国』でも『日本語』以外のとんでもない量の言葉があるそうだ。

『日本語』でも『ひらがな』『カタカナ』『漢字』『和製英語』があり、それに『外来語』が日常会話で入っているとのこと。


ヒナリとヨルクは『ひらがな』と『カタカナ』は何とかマスターした。

今はハンドくんが持ってきた本を開いている。

ヒナリとヨルクが開いているのはハンドくんがさくらから借りている『料理の本』らしい。

手順ごとに『写真』が載っていてわかりやすい本だった。

特にヒナリは料理に興味を持ったようで、漢字を覚えるスピードが上がった。

しかし『専門用語』が含まれているため『計量カップ』などの実物を見せてもらいながら説明を受けている。


ドリトスが読んでいるのは『マンガ』だ。

今読んでいるのは『創作フィクション』とのことだが、『実話ノンフィクション』をマンガにしたのもあるらしい。

風景や乗り物などあまりにもこの世界と違うそうで色々と驚かされるようだ。

所々でハンドくんに質問をしては説明を受けて読んでいる。


そして俺は『小説』を借りている。

これもマンガ同様、『創作』と『実話』があるそうだ。

文字が多く背景が分かりにくいが、ドリトスが読むマンガで似たイメージを見つけて想像をしながら読んでいる。

しかし『乗り物』や『建物』などはハンドくんたちに説明されないと分からない。




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