第82話




「さくらの『リンク』が強いようだからな。今日は此処で過ごす」


セルヴァンと話している間も、さくらはハンドくんに手伝ってもらいながら絵柄を合わせていく。


「なんだ?これは」


「以前さくらが言っておった『ジグソーパズル』じゃよ」


ドリトスの言葉に「ああ。あれか」と納得する。

ドリトスとセルヴァンは少し離れた場所でハンドくんたちから朝食を出されていた。

誰もがさくらの様子を見守っていると、ハンドくんがアイスを乗せた皿を持ってさくらの前に現れた。

器用にさくらの様子にあわせて邪魔にならないタイミングで口を開けさせて中に入れる。


「さくらが・・・食べてる!」


ヒナリが感極まった様子で口元を押さえて涙を浮かべる。

ハンドくんに促されると、さくらは無意識に口を開ける。

開いた口にハンドくんがアイスを入れて食べさせていく。

あっという間に完食したさくらは、一度もパズルで遊ぶ手を止めていない。

いつもなら「私がやりたい」と言い出すヒナリもただ口に両手をあてて『見守っているだけ』だった。


しばらくすると、フッとさくらが前のめりに倒れ込んだ。

ヨルクが身体を支えていたため座卓に顔面を強打するのは避けられたが。


『『さくらの意識いしき』がねむった。でもきたら『つづき』をするつもり』


ハンドくんの言葉で、さくらはセルヴァンに膝だっこされることになった。

『さくらの意識』がいつ起きるか分からない。

1時間で起きることもあれば、半日や1日起きないこともある。



・・・それと、さくらを抱いていれば『連中乙女たち』へのいかりを抑えられる。

セルヴァンは『連中』がまだ『さくらを諦めていない』ことに腹を立てているのだ。

誰もが怒気を発しないように気を付けている。

ハンドくんの話だと『弱い怒り』なら問題はないらしい。

しかし強い怒気や『攻撃による衝撃』はさくらの生命を奪いかねない。

そのため、ハンドくんたちは『ハリセン攻撃』をする際はさくらの魔石を使って結界を張るようにしている。

その分、ハンドくんの『ハリセン攻撃』の回数が増えるようになった。




ヒナリはさくらが少しでも食べ物を口にしたことにずっと興奮状態だ。

仕方がないだろう。

今まで何度か『リンク』はあったが、ひと口も食べさせることが出来なかったのだから。

それがアイスを『ひと皿』食べたのだ。


「ヒナリ。少しは落ち着け」


「だって・・・」


「さくらが寝てるだろ」


ヨルクに言われて慌てて口を押さえてさくらを見る。

さくらはセルヴァンの腕の中で変わらず寝息をたてている。

そして、珍しくハンドくんが興奮するヒナリの口を塞ぎに来なかった。



「ヒナリ。気持ちは分かるが少し静かにな」


「・・・はい」



みんなも笑顔になっている。

そうだよね。

口には出さないけどみんなだって嬉しかったんだよね。


「このまま『リンク』が続いたら、さくらの『意識』は戻って来るの?」


可能性かのうせいはある』

もどっても『ている時間じかん』のほうながいだろう』

かみ説明せつめいされたとおり、自分じぶんではなに出来できない』


「それでもいいのよ。だって『さくらがいる』だけで私はシアワセなの」



ヒナリは眠るさくらを見て微笑む。

さくらが『帰ってきて』からずっと考えていることがある。

キッカケはずっと前。

でも『決断する勇気』まではなかった。

その勇気が帰ってきたさくらを見ててついた。



「私ね。やっと『分かった』の。今まではヨルクにただ『守られていた』だけだって。自分で何でも『判断したつもり』になってたの。でもね。さくらに出会って『自分で初めて判断している』って実感出来たの。・・・そして、それには『責任』も付いてくるんだって初めて知った」


その上で・・・選んだ『道』がある。


私が『一番したいこと』。

『本当に大切にしたいこと』が見つかった。


それは『族長を継ぐこと』よりももっと『大事なこと』。



「私。『族長』を継がない。弟に譲るわ」



ヒナリの『宣言』に誰も反対をしなかった。

ヨルクなんて笑顔を浮かべている。


「ヨルク・・・反対しないの?」


「なんで?」


「『なんで』って・・・」


「いいんじゃないか?」


「・・・本当にいいの?」



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