第83話


セルヴァンやドリトスは『他種族』のため『族長継承』には口を出さない。

しかしヨルクは『同族』で『比翼』である以上、ヒナリとは『一蓮托生』なのだ。

そのため何か言ってくると思っていただけに、ヒナリは驚きを隠せない。


ヨルクにしてみれば『比翼』という『運命共同体』だからといって『ヒナリが自分で決めたこと』に口を出す気は毛頭ない。

大体、ヨルクと『思いは同じ』だろう。


「・・・ヒナリは『族長を継ぐ』より『さくらを守りたい』んだろ?」


ヨルクの言葉に目を丸くするヒナリ。

気付いていないと思っていたのだろうか。

『比翼』である前にオレたちは『さくらの親』だ。

さくらを『雛』に選んだ以上、途中で投げ出すような無責任なことはしない。


「さくらはオレたちが見つけた『雛』だからな。『最期』までオレたちで守るんだろ?」


ヨルクの言葉にヒナリは頷く。

ヒナリの親で族長のエレアルには、『翼族の羽衣』を取りに帰った時にオレたちが『雛』を見つけた事は話してある。

相手さくらは『人族』と同じだ。

他種族よりはるかに寿命が短い。

だからこそ『最期』まで守るつもりだ。


・・・たぶんエレアルは『ヒナリの選択』を嬉しさ半分、寂しさ半分で認めてくれるだろう。


「直接、エレアルに言いに行かないとな」


オレたちなら上層の強い風に乗って4時間も掛からずに往復出来るだろう。

ヒナリはさくらを見つめていたが「セルヴァン様、ドリトス様。さくらの事をお願いしても宜しいでしょうか」と言い出した。

確かに『今から』なら昼過ぎ、遅くても夕方には戻って来れる。


「構わぬよ」


「さくらが待っているからと言って慌てるなよ。・・・さくらを悲しませるだけだ」


「はい。分かりました」


セルヴァンに釘を刺されて神妙な表情を見せるヒナリ。


「そうと決まればすぐに行くぞ」


「ヨルク?」


ヨルクは立ち上がって『伸び』をして身体をほぐす。

「サッサと『答え』を突きつけて来ようぜ。そして一秒でも早くさくらのもとへ帰って来るんだろ」とヨルクに言われてヒナリは嬉しそうに頷いた。


本当は自分一人だけ行くつもりだったから。

やっぱり私は『ヨルクに守られている』んだって深く感じ、これからは自分もみんなと一緒に『さくらを守るんだ』と強く思った。


2人はさくらの頭を撫でたり頬にキスをして、テラスから飛び出して行った。





「ヒナリも『覚悟を決めた』ようじゃな」


「ええ」


ドリトスやセルヴァンはともかく、ヨルクも『覚悟』は既に決まっている。

ドリトスは『部族長』を。

セルヴァンは『族長』を。


あの日・・・

さくらの『意識』が自分たちを泣きながら探し回ったあの日あの時あの瞬間に退く意思を固めた。

2人は『さくらのためだけに生きる』ことを選んだのだ。

それには、今までの肩書きを背負っていては行動が制限される。

2人にとって、さくらより大切なものは何もなかった。



乙女たちが客間へ案内されるために応接室を退室してすぐ、ジタンに退任と滞在の許可を申し出た。

ジタンも乙女たちがさくらに執着していたのを『問題視』していた。

そのため「お二人がさくら様についていて頂けるなら安心できます」と快く了承してくれた。

まさか1時間もしないでジタンの嫌な予感通り『さくらの部屋』へ突撃するとは、その時の3人は思いもしなかったが。



すぐに自国へ退任を申し出ると、あっさり許可が下りた。

両国からは「我らが『愛し子』を宜しく頼む」とまで言われた。


セルヴァンの方は『族長』を長男シルバラートが、長男がになっていた『副族長』を次男ソルビトールが継いだ。

ドリトスの方は『各部族の長』たちの話し合いで『部族長』が決められる事になった。




そして今朝早く、『族長』『部族長』が到着して『引き継ぎ』も済ませて正式に退しりぞいた。

セルヴァンは『新族長』となった長男から「父にも『じょう』があったのですね」と笑われてゲンコツを落とした。

『補佐』としてついてきた次女と三女は変わらない2人のやり取りに顔を見合わせて溜め息を吐いた。


ドリトスの方は『新部族長』に息子が、『補佐』に孫娘が就いたことに驚いた。

「お主ら・・・『チカラずく』で奪ったんじゃないだろうな」と呆れた声を出すと意味ありげに笑われた。



2人の今の肩書きは『さくらの護衛』もしくは『さくらの世話役』だ。

ヨルクとヒナリは、さながら『さくらの親(鳥)』かセルヴァンたちと同様『さくらの世話役』だろうか。



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