第81話
「さくら〜。今日は天気がいいから『屋上庭園』に行くかー?」
朝、いつものように寝ているさくらに声をかける。
今日のさくらは目が開いていた。
頭を撫でて頬にキスをする。
しかし視線は天井から動かない。
表情も変わらない。
最近のさくらは、時々目を開けている時もある。
意識は戻っていないが・・・
セルヴァンたちの話では、高熱を出していた時もやはり目を開けていることがあったらしい。
さくらに『愛称』を呼ばれて『目覚めている』ことに気付いたそうだ。
ハンドくんの話だと、さくらの意識は『
時々、身体を起こそうとしたり手が動いたりするが、それは『さくらの意識と
もう少しリンクが強まれば、こちらで食事をさせることも出来るらしい。
・・・いまは何も食べていない。
水分と口の中で溶ける
だから以前より更に身体が弱っている。
ちょっとした熱や咳でも悪化しかねない。
悪化させれば死に直面する。
さくらが『帰ってきた』頃は表情ひとつ変えずに眠り続けるさくらを心配するヒナリが離れようとせず飲食もしなかった。
「さくらが何もクチに出来ないのに私が食事するなんて」と泣くヒナリはハンドくんに『離れないから食べさせられないだけ』と言われた。
ハンドくんから水分と栄養物をさくらが与えられる横でヒナリは自身の食事をしていたが今はリビングで食事をするようになった。
睡眠もさくらが心配でひと時も離そうとしなかったためハンドくんに無理矢理さくらから引き離された上、さくらの眠るベッドに結界を張られた。
泣き叫ぶヒナリは結界にしがみつきそのまま泣き疲れて眠ってしまった。
目覚めたヒナリはセルヴァンとドリトスから『さくらを抱きしめていたらいつまで経っても回復しない』と少し強めに叱られた。
そのためヒナリは『夜寝るとき以外はさくらを抱きしめない』と約束した。
ただし『屋上庭園』で
さくらを連れて部屋を空けていると、神々が室内を『清浄化』させてくれている。
さくらの身体が少しでも癒されるようにということだろう。
羽衣を手にさくらを抱き上げる。
抱き上げると、さくらの体重が軽くなったことを実感する。
それは『弱っている』という事実を改めて突きつけてくる。
その事実をさくらを抱き起こした時に気付いたヒナリは、その夜にベッドの中でさくらを抱きしめて泣きじゃくっていた。
リビングに入ってヒナリがさくらの腰に羽衣を結ぼうとしたと同時にさくらが動き出した。
「うぉっ!ちょっと待て。さくら!」
すぐ畳の上にさくらを座らせて身体を支える。
両手を動かして何かを手探りで探しているようだ。
「ハンドくん?」
ヒナリが声をかけるとホワイトボードに『現状』を教えてくれる。
『さくらの意識』が『ジグソーパズル』というゲームを遊ぼうとして準備しているそうだ。
ハンドくん曰く『今日はリンクが強い』らしい。
「ねぇ。その『ゲーム』って『此処』でも出来るの?」
ヒナリの言葉に驚いたが、ハンドくんの話だと『リンクが強いから出来る』との事だった。
すぐにハンドくんが座卓上に用意をしてくれる。
けっこう大きい。
『1,000ピースですから』との事だが、イマイチ意味がよく分からない。
さくらを座椅子に座らせて身体を支える。
何をしているのか分からないが『触らないように』と釘を刺されたからオレもヒナリも手を出さないで見守る。
「おはよう。・・・さくらは何をしているんじゃ?」
ドリトス様が部屋に『帰って』きた。
朝イチでセルヴァンと共に『仕事』に出ていたのだ。
「おはようございます。ドリトス様。『ジグソーパズル』というゲームだそうですよ」
「ああ。さくらから聞いたことがあったのう。『好きな遊び』らしいが」
「ハンドくんの話ですと『さくらの意識』が遊び出したそうです」
「今日は『リンク』が強いようじゃな」
「はい。そのため何か少しでも食べさせられたらと思っています」
さくらの準備が終わったようで、さくらの手にあわせてハンドくんたちが台紙の下に枠をはめて固定させていく。
「ああ。此処にいたのか」
「セルヴァン様。おはようございます」
「何かあったんか?」
さくらの身体を支えているヨルクが顔をセルヴァンに向ける。
セルヴァンの『安心した声』に違和感を持ったのだ。
「連中が『屋上庭園』に入って行くのを見た」
セルヴァンの言う連中とは『聖なる乙女』たちだ。
まだ『さくらと偶然会う』つもりでいるらしい。
・・・懲りない奴らだ。
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